千代田化工はなぜ株価暴落を繰り返すのか?4度の危機に潜む「大型案件」の罠

千代田化工建設の株価は、なぜ何度も暴落するのでしょうか。1996~1997年、2007~2008年、2018~2019年、そして2026年。約30年間に4度、大きな株価下落を経験してきました。共通するのは、海外大型プラントへの期待で業績と株価が膨らんだ後、工事費や人件費の増加、工程の遅れなどで採算が急変する構図です。過去4回の危機と再建策をたどると、世界屈指の技術力を持つ千代田化工が抱える「強さゆえの弱点」が見えてきます。

1996年、海外工事の赤字で株価は急落

千代田化工建設は、日揮ホールディングス、東洋エンジニアリングと並ぶ「エンジニアリング御三家」の一角です。特に、LNG(液化天然ガス)プラントでは世界各地で大型プロジェクトを手掛けてきました。

しかし、その歴史は大型プロジェクトによる成長と巨額損失の繰り返しでもあります。

最初の大きな危機が1996~98年です。1996年の株価は高値2660円をつけましたが、年間では2080円から1502円へ下落。さらに1997年には高値1526円から安値240円まで暴落し、年末終値は280円でした。1996年初めからみれば、わずか2年で株価は8割以上下落したことになります。

背景にあったのが海外プラントの採算悪化です。

当時の千代田化工は1997年3月期の経常損益について、期初には15億円の黒字を見込んでいました。ところが、タイの石油精製プラントやサウジアラビアの潤滑油プラントなど複数案件の採算悪化が判明し、1996年9月には170億円の赤字、11月には240億円の赤字へと相次いで下方修正しました。最終的には1996年度、1997年度と2年連続で500億円を超える当期赤字を計上し、1998年度も赤字が続きました。

会社は抜本的なリストラに踏み切ります。約3500人いた正社員を約1100人まで削減し、三菱商事などの支援を受けながら経営を立て直しました。

ここで注目したいのは、単純な「受注不足」で経営危機になったわけではないことです。プラント会社の大型EPC(設計・調達・建設)契約では、契約時点で工事価格を決めても、完成まで数年かかります。その間に資材価格、賃金、為替、工程などが想定から外れれば、受注したときには「優良案件」だったプロジェクトが巨額赤字へ変わります。

この構造は、その後も千代田化工を苦しめることになります。

2007年、LNGブームの絶頂から株価半値へ

1990年代の危機を乗り越えた千代田化工に、次の成長機会が訪れます。

世界的なLNG需要の拡大です。千代田化工は2001年にカタールのラスガスII、2004年にはカタールガスII、2005年にはラスガスIII、カタールガス3&4など、大型LNGプラントを相次いで受注しました。業績拡大への期待から株価も急騰します。2005年には年間で756円から2710円へ3倍以上に上昇。2006年には一時3220円まで上がりました。

ところが、再び採算問題が表面化します。2007年の株価は高値2930円に対して年末1273円まで下落し、年間45.4%安。2008年も下落が続き、安値348円、年末489円となりました。2007年の高値から2008年の安値まででみれば、約88%の下落です。

問題になったのが、成長の原動力だったカタールの大型LNG案件でした。世界的な資源開発ブームによって資材価格や建設コストが上昇し、約1兆円規模のカタールLNGプラントの採算が悪化。千代田化工は2008年3月期の業績予想を期中に2度下方修正しました。

興味深いのは、会社が1990年代の経営危機を経験した後、「リスク管理力の強化」を経営課題に掲げていたことです。それでも巨大プロジェクトのコスト変動を完全には抑えられませんでした。

そこで再び登場したのが三菱商事です。2008年、三菱商事は608億円の第三者割当増資を引き受け、千代田化工への出資比率を約10%から33.4%へ引き上げました。千代田化工は三菱商事の持分法適用会社となります。つまり、1990年代に経営危機を経験し、再建して成長軌道へ戻ったものの、約10年後には再び大型海外工事の採算問題に直面したのです。

2018年、キャメロンLNGで2149億円の赤字

そして千代田化工の歴史で最大級の危機となったのが2018~2019年です。引き金は米国ルイジアナ州のキャメロンLNGプロジェクトでした。

2016年の長雨や2017年のハリケーン・ハービーなどに加え、その後の復旧需要によって米国の熟練作業員が不足。現場作業員の生産性低下と賃金上昇が想定を大きく上回りました。

2018年4~9月期には1086億円の最終赤字に転落し、自己資本比率も2018年3月末の37.5%から9月末には12.7%へ急低下。「継続企業の前提に関する注記」まで付く事態となりました。

株価も崩れます。2018年は高値1150円に対して安値250円、年末終値310円。年間下落率は62.7%に達しました。10月30日の712円から、巨額損失が表面化した翌31日は562円、11月1日には462円、11月2日には382円と、わずか数日でほぼ半値になっています。

しかも損失はそこで止まりませんでした。2019年3月期には営業損失1997億9500万円、最終損失2149億4800万円を計上し、591億円を超える債務超過に転落しました。再び救済に動いたのが三菱商事です。

三菱商事は2019年、700億円の優先株引き受けと900億円の融資枠、総額1600億円の支援を決定しました。千代田化工はリスク管理体制を再構築し、海外大型案件の受注審査を厳格化して経営再建を進めます。

しかし、その後に受注した大型LNG案件で、再び予想外の事態が起きました。米テキサス州のGolden Pass LNG(ゴールデンパスLNG)プロジェクトです。

共同施工していた米Zachry社が2024年5月に米連邦破産法11条の適用を申請。千代田化工は完工に必要な追加コストなどを見積もり、同案件で370億円の損失を計上しました。2024年3月期は営業損失150億円、最終損失158億円となりました。

過去の教訓を生かしても、巨大プロジェクトでは「自社ではコントロールできないリスク」が消えなかったのです。

2026年、最高益から一転「利益85%減」

ただし、2026年の株価下落は過去3回とは少し性格が違います。2025年から2026年初めにかけ、千代田化工株は急騰しました。

2026年1月には、2019年の経営危機で三菱商事が引き受けたA種優先株について早期償還を目指す方針を発表。三菱商事による再生支援から「自立」する道筋が見えたことで、市場の期待が高まりました。株価は2026年2月12日に1830円まで上昇しました。ところが7月1日には636円まで下落。わずか5カ月弱で約65%も下落しています。

今回は「新たな巨額赤字」が直接の原因ではありません。むしろ2026年3月期は絶好調でした。

売上高4,939億円、営業利益821億円、最終利益847億円となり、営業利益は前期の約3.4倍、最終利益は約3.1倍に拡大しました。自己資本比率も前期末の5.1%から22.2%へ改善しています。利益を押し上げたのが、皮肉にも問題案件だったGolden Pass LNGです。

Zachry社離脱後に新しいJV体制を構築し、顧客とのEPC契約を改定したことで採算が大きく改善しました。2026年3月には第1系列で「1st LNG」の生産にも到達しています。

問題は、この利益が続かないことです。2027年3月期の会社予想は売上高3400億円、営業利益100億円、最終利益120億円。営業利益は87.8%減、最終利益は85.8%減を見込んでいます。つまり、2026年3月期の847億円という最終利益は、Golden Pass LNGの契約改定などによる採算改善が大きく寄与した「平常時の収益力とは異なる利益」だったのです。

8月に発表した2027年3月期第1四半期も、売上高867億円、営業利益47億円、最終利益55億円で、それぞれ前年同期を下回りました。さらに受注高は前年同期比76.7%減の310億円でした。

市場は「過去最高水準の利益」ではなく、その後に何円稼げるのかを見ています。2026年の株価急落は、危機再来というより、過度に膨らんだ再建期待が剥落し、収益の実力を測り直す過程と考えたほうがよいでしょう。

30年間繰り返してきた「成功→損失」の構造

4回の株価下落を並べると、千代田化工の特徴が浮かび上がります。1990年代はタイやサウジアラビアなどの海外プラント、2007~2008年はカタールLNG、2018~2019年はキャメロンLNG、2024年にはGolden Pass LNGで問題が発生しました。

原因はそれぞれ違います。資材価格の高騰、人件費上昇、作業員の生産性低下、自然災害、JVパートナーの破綻――。しかし、共通しているのは、数年かけて建設する巨大プロジェクトのリスクを契約時点ですべて予測することは難しいということです。

EPC事業には極端な非対称性があります。工事が予定通り進めば契約で決めた利益を得られますが、大きなトラブルが起きれば数百億円、場合によっては1,000億円を超える追加損失が発生します。売上高数千億円の企業が、わずか一つの案件によって債務超過に追い込まれることすらあります。

しかも、千代田化工はLNGという世界的に需要の大きい分野で高い技術力を持つため、好況期には巨大案件が集まります。強いから大型案件を受注できる。しかし、大型案件を受注するから、一つの誤算が会社全体を揺るがす。ここに千代田化工の「強さゆえの弱点」があります。

会社側もこの構造を認識しています。現在の中期経営計画では「海外大型プロジェクト中心の既存ビジネスモデルからの脱却」を掲げ、案件を選別し、国内EPCやライフサイエンス、脱炭素、O&Mなどへ収益源を分散する方針です。三菱商事も、この転換が収益変動を抑える重要な転換点だと評価しています。

千代田化工自身も、今後は「リスクを適切に管理した上で、取り組む分野及び案件を選別し、収益性と確実性を重視する」としています。2026年には三菱商事が保有するA種優先株の一部を551億円で取得・消却し、再生支援からの自立も始まりました。

本当に見るべきなのは、株価が再び1000円、1500円へ戻るかどうかではありません。「大型案件を取る→想定外のコストが発生する→巨額損失を計上する→資本支援を受ける→再建する」という30年来の循環を、今回は本当に断ち切れるのか。

2026年の株価下落は、過去の経営危機と同じではありません。しかし、市場が千代田化工に突き付けている問いは同じです。世界トップクラスの技術力を、安定して利益を生み出す力へ変えられるのか。

千代田化工の本当の再建は、過去最高益を出したときではなく、大型LNG案件の一時的な利益に頼らなくても安定して稼げる会社になったときに完成するのかもしれません。

文=KIJIKUL編集部
※本記事は情報提供を目的として作成したものであり、特定の企業、商品、サービス、金融商品、投資その他の取引を推奨または勧誘するものではありません。掲載内容は記事公開時点の公開情報等に基づいており、意見・見解・予測などは執筆者または編集部の判断によるもので、予告なく変更される場合があります。内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、最終的な判断はご自身の責任において行ってください。【KIJIKUL編集部】

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