「ナゴヤ金利」って何?地銀・信金が台頭、愛知で起きる金融の地殻変動の正体

愛知県の銀行勢力図に異変が起きています。メインバンク企業数では三菱UFJ銀行が依然トップですが、シェアは低下。一方、あいち銀行や名古屋銀行、信用金庫など地域金融機関が存在感を高めています。その背景にあるのが、全国屈指の低金利競争を意味する「ナゴヤ金利」です。しかし、「金利のある世界」の復活で競争ルールは変わり始めました。

三菱UFJがシェア低下!愛知で起きる「地殻変動」

愛知県といえば、三菱UFJ銀行の強固な地盤というイメージがあります。その源流の一つが、名古屋を本拠地としていた旧東海銀行です。現在も三菱UFJ銀行が愛知県最大のメインバンクであることに変わりはありません。

ところが、その足元で静かな「地殻変動」が起きています。東京商工リサーチがまとめた2026年3月末時点の調査によると、愛知県内で三菱UFJ銀行をメインバンクとする企業は1万9376社で、シェアは23%。首位を維持していますが、2021年の調査から約1ポイント低下しました。

一方、2位のあいち銀行は12%、3位の名古屋銀行は11%。信用金庫でも、碧海信用金庫が4%台までシェアを伸ばしています。地銀や信金が企業との関係を広げているのです。

その背景を読み解くキーワードが「ナゴヤ金利」です。愛知県を中心とする中部地方は、自動車などの製造業が集積し、財務体質の強い企業も少なくありません。設備投資を銀行借入に大きく頼らない企業も多く、金融機関からすると「貸したい優良企業は多いのに、資金需要はそれほど強くない」という状況になります。

そこへメガバンク、地銀、信用金庫が参入し、低い貸出金利で優良企業との取引を獲得しようとしてきました。それが全国でも低金利競争の激しい「ナゴヤ金利」を生んだのです。

しかし、この競争モデルが転換点を迎えています。日銀の利上げなどで「金利のある世界」が戻り、預金金利の引き上げなどによって金融機関の調達コストにも上昇圧力がかかっています。低い貸出金利だけで競争することは難しくなりました。

そこで重要になるのが、金利以外の価値です。碧海信用金庫は顧客データを活用した助言や経営支援メニューを拡充しています。資金が必要になってから融資するのではなく、その前から経営課題を把握して相談に乗る。

愛知県の金融競争は、「どこが一番安く貸すか」から「どこが企業の経営を一番理解できるか」へ変わり始めています。

地銀再編が加速、メガバンクを超える勢力も

この変化をさらに加速させているのが、県境を越えた地銀再編です。

2026年3月、しずおかフィナンシャルグループ(FG)と名古屋銀行が経営統合に基本合意しました。経営統合発表時に東京商工リサーチが公表した2025年の調査データでは、静岡銀行をメインバンクとする企業は1万8762社、名古屋銀行は9359社。合計2万8121社となり、国内金融グループで10位に相当する規模になります。

静岡銀行は静岡県で39.3%のシェアを持つトップ銀行です。名古屋銀行は愛知県で三菱UFJ銀行、あいち銀行に続く3位です。日本有数の製造業集積地域である静岡と愛知を結ぶ金融グループが誕生することになります。

さらに、2026年5月には、あいちFGと三十三FGも経営統合に基本合意しました。あいち銀行のメインバンク取引企業は1万1302社、三十三銀行は7544社で、合計1万8846社です。三十三銀行は三重県で百五銀行に次ぐ2位で、愛知と三重は自動車産業のサプライチェーンでも密接につながっています。帝国データバンクの試算では、統合後の中部3県におけるメインバンク企業の割合は14%となり、三菱UFJ銀行の13%を上回るとされています。

もちろん、メインバンク企業数と融資残高は同じではなく、三菱UFJ銀行が大企業を中心に強い顧客基盤を持つ構図がすぐに崩れるわけではありません。それでも、地域の中堅・中小企業との接点では、地銀連合の存在感が一段と高まります。

再編の目的も、単なるコスト削減ではありません。取引先が増えれば、販路開拓やビジネスマッチング、事業承継、M&A、人材支援など企業同士を結び付ける力も強くなります。地銀にとって再編は、「企業支援を事業にするための規模拡大」という意味を持ち始めています。

自動車産業の変革を支える金融機関は誰か?

愛知県の金融再編を考えるうえで欠かせないのが、自動車産業です。中部経済はトヨタ自動車を頂点に巨大なサプライチェーンを形成してきました。

しかし、電動化、ソフトウェア化、自動運転、AI、脱炭素などによって産業構造は大きく変わっています。EVでは使われなくなる部品がある一方、電池や半導体、ソフトウェアなど新たな分野への投資が必要です。その変化は、完成車メーカーだけでなく、中堅・中小の部品メーカーにも対応を迫ります。

そこで銀行の役割も変わります。設備投資資金を貸すだけでなく、「どの分野へ進出するのか」「生産性をどう高めるのか」といった経営課題そのものを支援する必要が出てきました。

象徴的なのが、あいちFGです。2026年5月、自動車関連のコンサルティングを手掛ける豊田エンジニアリングを買収しました。同社にはトヨタ自動車OBが多く所属し、製造現場の改善などのノウハウを持っています。つまり、取引先企業に「お金を貸す」だけでなく、「工場をどう改善するか」まで支援しようとしているのです。

メガバンクには海外ネットワークや大型M&A、資本市場、為替などの強みがあります。一方、地銀や信用金庫には、経営者と日常的に接し、工場を訪問できる地域企業との距離の近さがあります。この「顔が見える金融」を企業支援につなげられるかが、今後の勝負になります。

「ナゴヤ金利」から「企業支援競争」へ

これまで愛知県の金融競争を象徴してきたのが「ナゴヤ金利」でした。優良企業を獲得するため、低い貸出金利を競う。それは企業にとって大きなメリットでした。しかし、「金利のある世界」では、低金利だけに頼るモデルは難しくなります。

だからこそ地銀は統合で顧客基盤を広げ、信用金庫は地域密着を武器に、コンサルティング、ビジネスマッチング、事業承継、人材支援などへ業務を広げています。三菱UFJ銀行が愛知県で首位である構図は、すぐには変わらないでしょう。変わり始めているのは、企業が銀行を選ぶ基準です。

「一番低い金利で貸してくれる銀行」から、「自社の経営課題を一緒に解決してくれる銀行」へ。

愛知県で起きている金融の地殻変動は、地銀がメガバンクから顧客を奪うという単純な話ではありません。自動車産業が大きな転換期を迎えるなか、どの金融機関が地域企業の成長を支援できるのか。「ナゴヤ金利」で知られた愛知県の金融競争は、いま「金利競争」から「企業支援競争」へと舞台を移し始めています。

文=KIJIKUL編集部
※本記事は情報提供を目的として作成したものであり、特定の企業、商品、サービス、金融商品、投資その他の取引を推奨または勧誘するものではありません。掲載内容は記事公開時点の公開情報等に基づいており、意見・見解・予測などは執筆者または編集部の判断によるもので、予告なく変更される場合があります。内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、最終的な判断はご自身の責任において行ってください。【KIJIKUL編集部】

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