1キロ超1402円VS299円!ドンキと西友、弁当戦略はどっちが正解か?

物価高が続くなか、弁当売り場で正反対の戦略がぶつかっています。ドン・キホーテでは1キロを超える巨大弁当が人気となり、大容量シリーズの年間売上高は2億4000万円を突破。一方、西友では税込299円の「ロースかつ重」が店頭に並んでいます。1000円を超えても「量と楽しさ」を売るドンキと、300円を切る「安さ」を武器にする西友。正しいのはどちらなのでしょうか。両極端な弁当に、物価高時代の小売業の新しい競争が表れています。
1キロ超!ドンキは弁当を「エンタメ」に変えた
スーパーやディスカウントストアの弁当といえば、「安くてお腹いっぱいになる」というイメージがあります。
ところが、ドン・キホーテが力を入れているのは、必ずしも安い弁当ではありません。2025年2月に始めた大容量弁当シリーズ「衝撃の一食」は、すべて総重量500グラム以上。なかには1キロを超える商品もあり、年間売上高は2億4000万円を超えました。
人気商品の「南蛮チキンカツドーンカレー」は約826グラムで754円。「超☆衝撃 夢にまで見た巨大なオムライス」は約1032グラムで1402円です。2026年8月には約1230グラムの「超☆衝撃 夢にまで見たミックスグリルディッシュ」も発売しました。
弁当に1402円。決して「激安」ではありません。それでも売れるのは、ドンキが安さだけでなく、「体験」を売っているからです。売り場で巨大な弁当を見て驚き、持って重さを感じ、家族に見せ、SNSに投稿する。約1キロの巨大オムライスを紹介したTikTok動画は、配信から18日間で249万回再生されました。巨大であること自体が広告になるのです。
ただし、単に量を増やせばいいわけではありません。量が多いほど途中で味に飽きるため、複数の料理を組み合わせたり、味に変化を付けたりしています。ドンキが狙うのは「おいしさ」「楽しさ」に加え、思い切り食べる「背徳感」です。弁当を単なる食事から、「ご褒美」や「イベント」に変えたといえるでしょう。
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西友は299円!「安く作れる仕組み」で勝負
これとは正反対に見えるのが西友です。西友では現在、「ロースかつ重」を税別277円、税込299円で販売しています。物価高で500~600円台の弁当も珍しくないなか、約300円という価格は強烈です。
実は、西友にとって「300円弁当」は新しい戦略ではありません。2009年には、当時400~500円台が中心だったスーパーの弁当市場へ「298円弁当」を投入。リーマン・ショック後の節約志向を捉えてヒットし、他社が低価格弁当を投入するきっかけにもなりました。
約17年後の現在、再び300円弁当が注目されている背景には、トライアルグループによる西友の買収があります。トライアルホールディングスは2025年7月に西友を完全子会社化しました。食品の低価格販売とローコスト運営を得意とする企業で、西友でも惣菜やPB商品の強化、効率的な店舗運営を進めています。
ロースかつ重もトライアルの代表的な人気商品です。調理工程をデータ化し、専用調理機器などを活用することで、店舗による品質のばらつきを抑えながら、調理作業を効率化しています。
つまり、西友の299円かつ重は、単なる安売りではありません。「安く売れる仕組み」を作った結果としての299円なのです。しかも、約300円なら、一度話題になって終わる商品ではありません。会社員の昼食、高齢者や学生の食事、家庭の夕食など、日常のさまざまな場面で繰り返し利用できます。2026年7月には、西友の既存店売上高が前年同月比8.9%増となり、惣菜ではロースかつ重が売り上げに貢献しました。
ドンキが「一度食べてみたい」を作るなら、西友は「また明日も買える」を作っているのです。
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ドンキは「体験」、西友は「日常」を売る
では、1キロ超弁当と300円弁当、どちらの戦略が正しいのでしょうか。答えは、「どちらも正しい」でしょう。両社は同じ弁当を売っているように見えて、提供する価値が違うからです。
西友の299円かつ重は、「今日の食事をできるだけ安く済ませたい」という生活防衛ニーズに応えます。物価高で家計負担が増えるほど、この価値は高まります。一方、ドンキの巨大弁当は1000円を超えても、家族でシェアすれば1人当たりの負担は下がります。何より「巨大な弁当を買った」という楽しさがあります。
つまり、
ドンキ=「払った金額でどれだけ満足できるか」
西友=「いくら安く食べられるか」
という違いです。
物価高だからといって、消費者がすべての商品で安さだけを求めるわけではありません。日常では節約しながら、ときには多少お金を払ってでも楽しみたい。そんな「メリハリ消費」を、西友とドンキは別々の方向から捉えているのです。
弁当が「この店に行く理由」になる
さらに重要なのは、弁当単体の売り上げだけではありません。299円のかつ重を目当てに西友へ来てもらえば、飲料やサラダ、日用品などの「ついで買い」が期待できます。巨大弁当を見たくてドンキを訪れれば、「ほかにも面白いものがあるかもしれない」と店内を回遊するきっかけになります。弁当そのものが「来店する理由」になるのです。
ドンキを運営するPPIHグループは惣菜を成長分野と位置付け、2025年6月期に630億円だった惣菜売上高を2035年6月期には2000億円へ拡大する計画です。一方、西友もトライアルの商品力とローコスト運営を取り込み、「毎日使う店」としての競争力を高めようとしています。
ドンキは非日常のワクワク感を生み出し、「わざわざ行きたくなる店」を目指す。
西友は生活コストを抑え、「何度も通いたくなる店」を目指す。
1キロ超と300円の弁当。一見すると真逆ですが、最終的な狙いは同じです。
「この弁当があるから、この店に行く」
価格を極限まで下げるのか。それとも、多少高くても価格以上の満足を提供するのか。ドンキと西友の弁当は、物価高時代の小売業における二つの「正解」を象徴しているのです。
文=中田英明(経済ジャーナリスト)
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