味の素「ほんだし」AI広告が炎上!それでもAI広告がなくならない理由

生成AIを使った企業広告やSNS投稿の「炎上」が相次いでいます。味の素の「ほんだし」では、AI加工によって商品名やラベルが崩れた画像を公式Xに掲載し、謝罪する事態となりました。しかし、問題はAIを使ったことだけではありません。企業の商品や顧客、クリエイターへの「リスペクトが欠けている」と受け取られたとき、批判が集中しています。それでも、広告制作の効率化や表現力向上につながる生成AIはなくならないのはなぜでしょうか。
「ほんだし」のAI画像に批判が殺到した理由
味の素の公式Xアカウントが投稿した「ほんだし」の画像が炎上しました。
2026年8月14日、「味の素パーク」の公式Xは、「ほんだし」を使ったレシピを画像付きで紹介しました。ところが、画像内の商品ラベルや文字が不自然に崩れており、「生成AIを使ったのではないか」「自社商品なら写真を撮ればいい」といった批判が相次ぎました。味の素側は8月16日、実際の商品写真をもとに明るさや背景などをAIで加工した結果だと説明し、確認不足を謝罪しました。
重要なのは、消費者が単純に「AIを使ったから怒った」わけではないことです。スマートフォンの写真でもAI補正は日常的に使われています。明るさの調整や背景加工そのものに、多くの人が抵抗を感じているわけではありません。
問題は、自社商品の顔ともいえる「ほんだし」の商品名やパッケージが崩れているにもかかわらず、そのまま公式アカウントで公開されたことです。パッケージやロゴは、企業が長い時間をかけて育ててきたブランド資産です。そこを雑に扱っているように見えれば、消費者には「自社商品を大切にしていないのではないか」という印象を与えます。
つまり今回の炎上は、AIの精度というより、効率化を優先するあまり自社商品へのこだわりまで薄れたように見えたことが大きかったと考えられます。
なぜAI広告の炎上はなくならないのか
生成AIの性能は急速に進歩しています。数年前は、指の本数がおかしい、関節が不自然、文字が読めないといった欠点が目立ちました。現在は動画や人物画像もリアルになり、一見しただけではAI生成と分からないものも増えています。それでも炎上がなくならないのは、問題の中心が「技術の未熟さ」から「企業の姿勢」へ移っているからです。
典型的なのが、クリエイターとの関係です。ペンタブレットを展開するワコムでは2024年、公式プロモーション画像を巡って生成AIの使用を疑う声が上がり、絵を描くクリエイターを主要顧客とする企業の広告表現として適切なのか、批判が広がりました。画材メーカーのサクラクレパスでも、海外イベント向けの販促物を巡って生成AIの使用を疑う声が上がり、画像の不自然さや商品表記の確認不足などが批判されました。
こうした企業は、人間の「描く」「作る」という活動を支えることでブランドを築いてきました。その企業がAIで制作コストを削減しているように映れば、「創作そのものを軽く扱っている」と受け取られる可能性があります。
食品や高級ブランドでも同じです。料理ならおいしそうな質感、高級商品なら細部まで作り込む丁寧さが価値になります。そこで安易なAI画像を使えば、「この企業は広告まで手を抜くのか」と見られかねません。
さらに厄介なのは、実際にはAIを使っていなくても「AIっぽい」と疑われることです。2025年には東洋水産の「赤いきつね」のアニメCMを巡って生成AI利用を疑う声が広がりましたが、制作会社は生成AIの使用を否定しました。
今後は「AIを使ったら炎上する」だけではなく、表現に違和感があるだけで「AIで安く作ったのではないか」「クリエイターを軽視しているのではないか」と疑われる時代になったのです。
それでも企業がAI広告をやめられない理由
それほど炎上リスクがあるなら、企業は広告で生成AIを使わなければよいのでしょうか。現実には、そうならないでしょう。最大の理由は、制作スピードとコストです。
従来、広告用の画像を1枚作るにも、企画、撮影場所、モデル、カメラマン、撮影後の加工など多くの工程が必要でした。生成AIなら、背景や人物、商品の利用シーンなどの試作を短時間で大量に作れます。例えば一つの商品について、「オフィス」「家庭」「アウトドア」「若年層向け」「シニア向け」といった複数案を一気に制作することも可能です。
これは単なる広告費削減にとどまりません。Web広告やSNSでは、多数の画像や動画を試し、反応を見ながら改善する運用が重要です。大量の素材を短時間で生み出せる生成AIとデジタル広告は、非常に相性がいいのです。
成功例として知られているのが、伊藤園の「お~いお茶」です。同社は2023年、テレビCMに生成AIで作られた「AIタレント」を起用しました。AIであること自体を企画の特徴として打ち出し、人間のクリエイターによる調整も加えることで、「AIだから安く作った」という印象とは異なる見せ方をしました。
ここに炎上するAI広告との違いがあります。AIを「人の仕事を置き換えるための道具」として使うのか、「新しい表現を生み出す道具」として使うのか。同じ生成AIでも、消費者が受け取る印象は大きく変わります。
企業に必要なのは「生成AI禁止」というルールではありません。重要なのは、AIが生成した画像や文章をそのまま公開せず、商品名、ロゴ、人物、背景の文字などを人間が確認することです。
さらに、そのブランドでAIを使う意味を考える必要があります。職人技、手作り、伝統、創作を価値としている企業ほど慎重さが必要です。一方、テクノロジーや未来感を打ち出す企業なら、AI利用そのものがブランドメッセージになることもあります。
そして「AIが作ったから仕方ない」という言い訳は通用しません。最終的に公開した責任を負うのは企業です。
AI時代に問われる「手触り」と「こだわり」
生成AIが広告制作を大きく変えることは間違いありません。画像、動画、コピー、ナレーションまでAIで作れるようになれば、これまで数週間かかった制作を数日、場合によっては数時間で進められるようになります。しかし、効率化できる範囲が広がるほど、逆に価値を持つものがあります。
それが、「人間がどこまでこだわったのか」という手触りです。「ほんだし」のケースでも、背景をAIで変更したこと自体より、自社の商品名が崩れていることを見過ごしたように見えたことが不信につながりました。
生成AI時代に企業が問われるのは、「AIを使ったか、使わなかったか」ではありません。どこをAIに任せ、どこだけは人間が絶対に譲らないのか。その境界線を持つ企業ほど、むしろAIを大胆に活用できます。
反対に、「安いから」「早いから」という理由だけでAIに任せれば、制作費を削減する代わりに、長年築いたブランドへの信頼を失う可能性があります。
AI広告がなくなることはないでしょう。むしろ利用はさらに広がると考えられます。だからこそ、これから差がつくのはAIの性能ではありません。AIでどこまで効率化しても、自社の商品と顧客に向ける「こだわり」まで効率化しない。そんな企業にこそ、生成AI時代のブランド価値は残っていくのではないでしょうか。
文=夏樹真生(経済ジャーナリスト)
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