辞めないけれど頑張らない!「静かな退職」に中小企業はどう向き合うべきか

会社は辞めない。しかし、昇進や出世を目指して必要以上に頑張ることもしない――。「静かな退職」という働き方が日本でも広がっています。マイナビの調査では、正社員の46.7%が「静かな退職」をしていると回答し、20代では半数を超えました。深刻な人手不足のなか、企業にとって社員の意欲低下は見過ごせません。しかし、単純に「最近の若者はやる気がない」と片付けてしまえば、本当の原因を見誤ります。
正社員の46.7%「静かな退職をしている」と回答
会社を辞めるわけではないのに、仕事とは一定の距離を置く――。そんな「静かな退職」が、日本企業にも広がっています。
マイナビが20~59歳の正社員3000人を対象に実施した「正社員の静かな退職に関する調査2026年(2025年実績)」によると、「静かな退職をしている」と回答した人は46.7%。前年から2.2ポイント増えました。年代別では20代が50.5%と最も高く、30代49.1%、50代46.7%、40代42.3%と続きます。若手だけの現象ではなく、すべての年代で4割を超えています。
さらに、注目すべきなのは、一時的な現象とは言い切れないことです。静かな退職をしている人のうち、「働いている間はずっと続けたい」が28.8%、「できるだけ続けたい」が23.9%、「どちらかといえば続けたい」が21.1%。合わせると73.7%が今後も続けたいと回答しています。
なぜ、ここまで広がったのでしょうか。背景にあるのは、仕事に対する価値観の変化だけではありません。調査では、静かな退職に至ったきっかけを「無関心」「損得重視」「評価不満」「不一致」の4タイプに分類しています。最多は「無関心タイプ」の20.6%ですが、「損得重視」が18.8%、「評価不満」が17.0%、「不一致」が16.0%でした。
つまり、「仕事より私生活を大切にしたい」という積極的な選択だけではありません。「頑張っても評価されない」「希望しない仕事を任された」「会社に期待しなくなった」といった経験から、仕事への関与を意図的に減らしている社員もいるのです。
「静かな退職」は本当の退職ではない
そもそも「静かな退職」とは何でしょうか。英語の「Quiet Quitting」を訳した言葉で、実際に会社を辞めることではありません。マイナビは「やりがいやキャリアアップは求めずに、決められた仕事を淡々とこなすこと」と定義しています。2022年に米国でSNSを通じて広まり、注目されるようになりました。
ここで注意したいのは、「静かな退職=仕事をしない」ではないことです。勤務時間中は担当する仕事をする。しかし、必要以上の残業はせず、昇進のために仕事を抱え込んだり、求められていない役割まで引き受けたりしない。仕事と私生活の境界線を明確にする働き方ともいえます。そのため、企業側も必ずしも全面的に否定しているわけではありません。
マイナビの企業調査では、中途採用担当者の42.2%が静かな退職に「賛成」と回答し、「反対」の30.1%を上回りました。「人それぞれにあった仕事をしてほしい」「決められたことをきちっとこなせる社員も一定数いないと経営が成り立たない」といった意見もあります。
会社には、全員が管理職を目指す必要も、全員が新規事業を提案する必要もありません。決められた仕事を正確に続ける社員も組織には必要です。問題になるのは、本来は意欲があった社員が「頑張っても意味がない」と考え、消極的な静かな退職に変わった場合です。
中小企業ほど「静かな退職」を放置できない
特に注意が必要なのが中小企業です。大企業なら一人の社員の仕事への関与度が低下しても、組織全体で補える場合があります。しかし、10人、20人の会社では、一人ひとりが担う仕事の割合が大きくなります。
数人が必要最低限の仕事しかしなくなれば、その分の仕事が意欲の高い社員に集中する可能性があります。すると、頑張っている社員ほど「なぜ自分ばかり」と感じ、その社員まで意欲を失う。静かな退職が連鎖する危険があります。中小企業では一人ひとりの役割が大きいため、少数の社員の変化でも組織全体に影響しやすいと指摘されています。
だからといって、「もっとやる気を出せ」と精神論で解決しようとするのは逆効果でしょう。
まず見直したいのが「評価」です。企業調査では、目標設定について「会社や上司の決定」が33.7%を占め、評価についても「評価基準や結果は公表されない」が27.6%と、「オープンで説明がある」の26.8%をわずかながら上回りました。異動や転勤、キャリアパスでも個人の希望より会社の指示が強い傾向が示されています。
社員が「何をすれば評価されるのか」「頑張れば給与や役割がどう変わるのか」を理解できる仕組みをつくることが重要です。複雑な人事制度を導入する必要はありません。目標を上司と部下で共有し、評価基準を明確にし、結果を本人に説明する。それだけでも納得感は変わります。
経営者が知るべき「仕事から距離を置く」理由
経営者や管理職が最初にすべきことは、「静かな退職者」を探し出すことではありません。社員がなぜ仕事から距離を置くようになったのかを知ることです。
そのために有効なのが定期的な1on1です。ただし、売上や進捗状況を確認するだけでは意味がありません。「今の仕事で困っていることはないか」「今後どんな仕事をしたいか」「会社に改善してほしいことは何か」を聞く時間にする必要があります。参考資料でも、定期的な対話、公正で透明な評価、成長機会の提供、柔軟な働き方などが対策として挙げられています。
同時に、経営者自身も考える必要があります。自社は、すべての社員に高い仕事への熱意や昇進意欲を求める会社なのか。それとも、決められた仕事を確実に遂行する社員も評価する会社なのか。全社員を同じ価値観に変えることはできません。重要なのは、会社が何を求め、それに対してどのような評価や報酬を与えるのかを明確にすることです。
人手不足だからこそ、「辞めていないのだから問題ない」と考えるのも危険です。一方で、定時で帰る、昇進を望まない、仕事より家庭を優先するといった行動だけで「静かな退職」と決めつけるべきでもありません。
見るべきなのは、社員が担当する仕事をきちんと果たしているか、本人が納得して働いているか、そして本来持っていた意欲を職場の問題によって失っていないかです。「静かな退職」の広がりは、若手社員のやる気の問題というより、会社と社員の間で「何のために、どこまで働くのか」という約束を見直す時期が来ていることを示しているのかもしれません。
人を採用することが難しい時代だからこそ、社員に「もっと頑張れ」と求める前に、頑張ろうと思える会社になっているかを問い直すことが、中小企業の人材定着の第一歩になりそうです。
文=夏樹真生(経済ジャーナリスト)
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