「静かな休暇」はサボりか?テレワークの死角と出社回帰の背景にある職場構造

勤務中のはずなのに、実際は休んでいる。休暇を申請せず、働いているように装う「静かな休暇」が、米国の調査や日本のビジネスメディアで注目されています。テレワークはその行動を取りやすくしますが、在宅勤務ならサボるのが当然というわけではありません。その背景には、休みにくい空気や曖昧な評価、上司と部下の不信感も横たわっています。
「静かな退職」とは違う、勤務を装う休み
チャットの表示はオンラインなのに、仕事は進んでいない。休暇の申請もないまま、私用で長時間業務を離れる。こうした行動が「静かな休暇」、英語で「クワイエット・バケーショニング(Quiet Vacationing)」と呼ばれています。正式な休暇制度ではなく、勤務しているように見せながら、会社に知らせず休む行為を表す言葉です。
「静かな退職」とは区別が必要です。静かな退職は一般に、実際には退職せず、仕事への過度な献身を避け、求められた範囲の業務を行う姿勢を指します。約束した仕事を果たすことと、実際には働かず勤務しているように装うことには、大きな違いがあります。
米調査会社ハリス・ポールは2024年4月、米国の18歳以上の就業者1170人を対象に調査しました。上司や勤務先に伝えず休んだ経験がある人は全体の28%、調査時点で28〜43歳のミレニアル世代では37%でした。
ただし、これは在宅勤務者だけの数字ではありません。調査には完全出社、在宅と出社の併用、完全在宅の人が含まれています。「テレワーカーの約4割がサボっている」と読み替えるのは誤りです。また、経験の有無を尋ねた調査から、日常的な頻度や近年の増加幅までは分かりません。
テレワークでは周囲の目が届きにくく、勤務の実態を確かめる難しさがあります。しかし、その環境が行動の余地を広げることと、在宅勤務が不正を必然的に生むことは別です。出社していても、席にいるだけで仕事をしていない状態は起こり得ます。
米国の調査結果を日本の実態と混同しない
日本でも「静かな休暇」を紹介する記事が登場しています。ただし、言葉が注目されることと、日本の職場で広く発生していることは同じではありません。米国の数字をそのまま日本に当てはめるべきではありません。
それでも、背景にある「休みを取りにくい職場」という問題は、日本企業でも点検すべき課題です。厚生労働省の2025年就労条件総合調査では、2024年(または2023会計年度)の年次有給休暇取得率は66.9%でした。労働者1人平均の付与日数は18.1日、取得日数は12.1日です。
取得が進んでも、全員が希望どおりに休めるとは限りません。一方、取得率だけで「残りはすべて休みにくさのせい」とも言えません。業務の繁閑、本人の希望、職場ごとの事情を分けて見る必要があります。
ハリス・ポールの調査では、ミレニアル世代の61%が休暇の申請に不安を感じると回答しました。いつでも応答するよう求められる圧力や業務量も、休暇取得の障壁として挙がっています。制度上は休めても、申請すると評価が下がると感じる。休暇中も連絡が来る。そんな環境では、正規の手続きより隠れた離脱を選ぶ誘因が生まれます。
本人の責任と会社の責任は両立する
会社に知らせず勤務を装う行為については、本人に説明責任があります。休みにくい事情があるからといって、虚偽の勤怠申告が正当化されるわけではありません。予定していた対応が滞れば、顧客や同僚にも負担が及びます。
ただし、上司が応答の遅さだけで「サボり」と決め付けるのも早計です。集中作業、会議、通信障害、会社が認めた休憩や勤務時間の調整など、事情はさまざまです。まず勤務ルールと実際の状況を確認する必要があります。
会社側が見直すべきなのは、休暇や中抜けの手続き、業務の引き継ぎ、評価基準です。誰かが休むと仕事が止まるなら、担当者を責めるだけでは解決しません。資料の共有や代替担当の設定など、休める状態をつくることも管理の仕事です。
評価も「成果だけ見ればよい」と単純化はできません。顧客対応やチーム作業には、決められた時間に応答すること自体が業務となる場面があります。納期や品質に加え、対応時間、進捗共有、協力のルールを具体化し、労働時間も適切に把握する必要があります。
常時オンラインの表示は、仕事の質も量も証明しません。上司は短い定期面談で、完了した仕事、止まっている仕事、支援が必要な点を確認する。部下も遅れや離席を必要な範囲で共有する。監視の強化だけに頼らず、双方の約束を明確にすることが重要です。
例えば、午前中に急な家庭の用事が入った際、誰に連絡し、離席時間を勤怠記録にどう反映するかが分かれば、無断で離れる必要は減ります。反対に、連絡先が曖昧で、相談するだけで叱責される職場では、問題が表面化しにくくなります。ルール違反には事実に沿って対応しつつ、申告しやすい経路も整える。この二つを同時に進めることが、誠実に働く社員を守ることにもつながります。
出社回帰の理由は「サボり対策」だけか
米アマゾンは2024年9月、2025年1月から原則週5日出社とする方針を発表しました。公式説明で挙げたのは、企業文化の共有、協働、アイデア創出、相互学習などの利点です。「静かな休暇」対策が主因だったと断定できる根拠はありません。
日本でも、パーソル総合研究所の2026年7月調査では、正社員のテレワーク実施率は21.4%で、前年同期から1.1ポイント低下しました。従業員の回答では、勤務先から原則出社を指示される傾向も強まっています。
一方、国土交通省の2025年度調査では、雇用型就業者の直近1年間のテレワーク実施率は16.8%と、前年度から1.2ポイント上昇しました。対象者や調査時期、実施率の定義が異なるため単純比較はできませんが、日本全体が一方向に在宅勤務をやめているわけでもありません。
仕事が見えない不安は、出社を求めたくなる一因になり得ます。ただし、席に戻せば信頼が回復するとは限りません。何を、いつまでに、どの品質で仕上げるかが曖昧なら、出社しても管理の問題は残ります。
対面での育成や議論が必要な日は集まり、集中作業は在宅にする。その判断には、業務の性質と実績を使うべきです。テレワークには通勤負担を減らし、育児や介護との両立を支える価値もあります。一部の不適切な行動だけを理由に、テレワーク制度全体の是非を判断するのは適切ではありません。
「静かな休暇」は、テレワークの当然の帰結ではありません。働く約束を守る本人の責任と、安心して休み、仕事を引き継げる会社の仕組み。その両方を整えることが、働く場所を問わず成果を上げる土台になります。
文=KIJIKUL編集部
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