なぜ一倉定は社長を叱り続けたのか?社長の判断が会社の存続を決める大原則
-1024x614.webp)
第1回
「会社は社長次第でどうにでもなる」。こう断言し、多くの経営者を叱咤激励した伝説の経営コンサルタント・一倉定氏は、「社長の教祖」とも呼ばれました。病床にあっても経営者の甘さを見逃さず、お客様第一の姿勢や経営者としての覚悟を問い続けたといいます。情報や経営手法があふれる時代だからこそ、社長が拠って立つべきものは何なのでしょうか。一倉定氏が生涯を通じて説き続けた「社長学」の本質を読み解きます。
病床でも貫いた鬼気迫る社長への喝
「世の中に、良い会社とか悪い会社なんてない。あるのは、良い社長か悪い社長だけである。会社は社長次第でどうにでもなるんだ」と断言しました。この一言こそ、“社長の教祖”の異名を持つ一倉定(いちくら・さだむ)先生の信念でした。
「事業経営とは何であるか?」を探求し続け、社長に「正しい姿勢」「正しい経営のあり方」を説くことだけに専念しました。そして、1999(平成11)年3月に亡くなる直前、病床においてさえも鬼気迫る形相で社長を叱り飛ばしていました。
最期は教え子であるT社長の運営する施設に入られましたが、社長の計らいで富士山を望める特別室が用意されました。しかし、部屋に入るや否や、「社長を呼んで来い!」と一喝。
「君は富士山が綺麗に見えると言ったが、いったいどこに見えるんだ!」
確かに、窓からは雄大な富士山が正面に見えてはいるが、ベッドに横になると壁と青い空しか視界に入ってこないのです。
「君はこのベッドに寝たことがないだろう」
「一晩も泊まったことはないはずだ」
あれほど、「お客様の立場になって」「お客様第一主義」と教え、経営計画書に書いてあっても、「君はまだ全然わかっていない」と大目玉でした。
会社の繁盛も長い事業の継続も「全てはお客様がお買い求めになられ、満足し、また購入していただけることでしか実現できない」のです。「この当たり前すぎるほど当たり前のことが、なぜわからないんだ」と常に社長に「喝」を入れ続けていました。
実際、多くの社長は商売上手であり、現在の成功は、お客様のニーズを捉える商品・サービスを開発し、組織を率いる力があったからこそです。
社長の決断ミスは経営の致命傷になる
しかし、経営が順調になればなるほど自信にあふれ、やがて慢心し傲慢になり、自分本位となりお客様を忘れた社長が、そこにいます。社員、現場からの意見は耳に入らなくなり、さらに「お客様は日々変化し、目が肥え、新しいサービスを体験し、歳もとっていく」現実を、社長自身が自分の足と耳と目で実感しない限り、次代を担う商品もサービスも生み出せるものではありません。
「社長の居場所は常に市場や、お客様のところになければならない」とした一倉社長学の原則は、時代を超え不変の哲理です。
あるときは、大手メーカーの下請けで赤字に転落したA社長からのSOSを受け、「工場のコストダウン政策では潰れてしまう!」と檄を飛ばし、嫌がる社長とともに販売店の店頭訪問を繰り返し、高級ラインの商品開発と値上げ要請、自主販売の具体策を講じました。また、不渡り事故で資金難に陥りそうになった社長と経理部長を川崎の自宅に呼び、休日を返上し深夜に及ぶまで資金対策や銀行対策に心血を注ぎ、何としても会社を守り抜くための手立てを考え、実行させ続けました。
全ての権限を社長に集中させ、怯懦(きょうだ=臆病で気が弱いこと)になる社長の背中を押し、強烈なトップダウンで血が流れようと幹部が反対しようと、会社を存続させるためには泣いて馬謖を斬ることも断行させたのです。
オーナー社長が圧倒的に多い中小企業の経営は、大手企業とは根本的に違います。
社長の在任期間も20~30年と長く絶対的な権力を持ち、ナンバー2、後継者、経営幹部といえども反対意見は言いづらく、社長が暴走し始めたら止められません。
派手な遊興や政治活動、名誉職、情実人事などは論外ですが、大型の設備投資や新規事業への資金投入、衰退事業への固執やテコ入れなど、社長が陥りやすい経営戦略上の判断ミスは致命傷になりかねません。
ましてや、危機に陥ったときには、実際のところ金融機関の支援は期待できません。親族といえども雲散霧消し、社長が全財産と人生を賭して生き残る道を探ろうにも、誰一人相談に乗ってくれる相手もいなくなってしまいます。
だからこそ常日頃から絶対に倒産しない会社にするために、一倉先生は溢れんばかりの愛情をもって、社長を叱り飛ばし、ときには鉄拳を辞さない覚悟で「正しい社長の姿勢」を生涯説き続けました。
ネットやAmazonのお陰で社長が勉強する環境はこの20年間で激変しました。国内はもとより、アメリカの最新情報やアジアの流行も、瞬時にアクセスできるため、かえって社長自身が混乱し経営の軸を見失っているように見えます。
時代を超えて生き続ける経営原則
どんなに正論の経営書であっても売れなければ出版社にとって事業は成立しないので、マーケティングの原則通り、エッジの効いたタイトル、内容、さらには超レアな成功事例を「これこそが最新の経営手法」とばかりに囃し立てます。読めば確かに面白いし、知識が増え、自分自身が成長しているように思えてきます。
特に、カタカナのビジネス用語、アルファベット3文字~4文字の略語がくせもので、いかにも最先端のように感じますが、そのほとんどは10年、20年前にも同じような内容で、しかし別の言葉・概念で語られていたことが手を変え品を変え登場してきます。
若い社長にしてみれば、アメリカの最新ビジネススキルや憧れの社長が語る成功ストーリーであるため、自社に取り入れ、IPOを目指したい衝動に駆られるのは理解できないわけではありません。しかし、冷静に考えてほしいのです。サッカーであれば県大会、国体に出るチームが、ワールドカップの優勝チームに挑むようなものです。練習方法さえ参考にならないこともあります。
だから、私は勉強会に出席する社長、特に高学歴の若手社長にはいつも、本やベンチマーク企業を見るときの方法論を次のように説明しています。縦軸に海外と日本、横軸に大企業と中小・ファミリー企業を置き、4つの象限マトリックスを書きます。そして、今の学ぶ対象がどの象限であるかを確認するように、と伝えています。
『一倉定の社長学全集』(日本経営合理化協会出版局)を改めて読んでみると事業経営の原理原則とともに、会社で働く人間そのものについても説かれていて、社長が陥りやすい判断ミス、あるべき姿が多くの体験と指導事例を通して書いてあります。

だから、日本の中堅企業、中小企業における同族企業のオーナー社長としての原理原則をしっかり身に付け、自分自身の考え方、経営の軸をしっかり持った後に応用として最新手法を取り入れることを私は勧めています。
基本動作の反復の大切さについては、一流のアスリートならば誰もが認めるところであり、事業経営もまたしかりです。一代で1兆円を超える成長企業を築かれた社長が、若い時期に一倉門下生として勉強していたのを私たちは見ています。
基礎を固めてその後、多くの勉強で自分の器を大きくし、事業を育て、次世代にバトンを託す時期を迎えたら、『一倉定の社長学全集』を後継者に渡すオーナー社長は今でもたくさんいます。原則はいつの時代にも通用するから原則なのです。
スタートアップ時点でイグジット(出口)を考え経営することも否定はしませんが、経営の主流になることはありません。新しい古いの問題ではありません。資本主義、経営に対する多くの日本人の哲学の違いであるからです。
※本稿は作間信司著『伝説の経営コンサルタント 一倉定の社長学』(プレジデント社)から一部を抜粋し、再編集したものです。
文=作間信司(日本経営合理化協会専務理事/執筆時)
作間信司(さくま・しんじ)
1981年、明治大学経営学部卒業後、大手インテリア会社にて販売戦略などの実務経験を積んだ後、1983年、日本経営合理化協会入協。事業の企画・立案を担当する傍ら、会長牟田學の薫陶を受け、全国の中堅・中小企業の経営相談に携わる。以来、40年以上の豊富な指導経験からオーナー経営者との親交も非常に広く、その親身のコンサルティングに多くの社長が全幅の信頼を寄せる。メーカー・商社・小売・サービス業など、現在まで300余社を指導する気鋭のコンサルタント。
※本記事は情報提供を目的として作成したものであり、特定の企業、商品、サービス、金融商品、投資その他の取引を推奨または勧誘するものではありません。掲載内容は記事公開時点の公開情報等に基づいており、意見・見解・予測などは執筆者または編集部の判断によるもので、予告なく変更される場合があります。内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、最終的な判断はご自身の責任において行ってください。【KIJIKUL編集部】
120×520.jpg)

