第一三共は「エンハーツ」絶好調でも株価6割下落!市場が警戒する3つの理由

製薬大手の第一三共の株価が低迷しています。主力抗がん剤「エンハーツ」は急成長し、2027年3月期第1四半期の売上収益も前年同期比21.1%増となりました。それでも株価は2024年8月の高値圏から一時6割超下落しています。なぜエンハーツが売れているのに株価は上がらないのでしょうか。背景には利益成長の鈍化、エンハーツへの依存、そして「次の大型薬」を求める市場の厳しい視線があります。

「エンハーツ」絶好調でも第一三共株は大幅下落

第一三共が2026年7月31日に発表した2027年3月期第1四半期決算は、売上面では力強い内容でした。

売上収益は5747億円と前年同期比21.1%増加し、本業の収益力を示すコア営業利益も1073億円と6.2%増えました。一方、営業利益は851億円と12.0%減、親会社の所有者に帰属する四半期利益は686億円と19.7%減少しました。つまり、売上収益と本業の収益力は成長しているものの、最終利益まで含めれば手放しで「好決算」とはいえない内容です。

成長を牽引しているのが、抗体薬物複合体(ADC)の抗がん剤「エンハーツ」です。抗体を使ってがん細胞を狙い、薬物を届ける第一三共独自のADC技術を代表する製品で、世界的な大型薬へ成長しています。

2027年3月期第1四半期のエンハーツの売上収益は2398億円と前年同期から788億円増加しました。製品売上だけでも2192億円となり、前年同期から640億円増加しました。海外では米国が283億円、欧州が75億円増加し、国内売上も84億円から119億円へ伸びています。

第一三共はこの好調を受け、2027年3月期のエンハーツ売上収益予想を366億円引き上げ、1兆300億円としました。エンハーツは文字通り「1兆円医薬品」の領域に入ろうとしています。

ところが株価は逆方向に動いてきました。

2024年8月1日に6357円だった株価は下落を続け、2026年6月1日には2390円まで低下しました。下落率は約62%で、一時は6割以上値を下げたことになります。その後やや戻したものの、2026年8月12日の終値は2805円。2024年8月初めの水準から半値以下となっています。

エンハーツの売上は伸びているのに、株価は2024年8月初めの水準から半値以下――。この一見矛盾した状況こそ、現在の第一三共株を考える重要なポイントです。

売上2兆3400億円でも株価が上がらない理由

第一の理由は、売上収益の成長がそのまま利益成長につながっていないことです。第一三共は今回、2027年3月期の売上収益予想を従来の2兆2800億円から600億円引き上げ、2兆3400億円としました。一方、親会社の所有者に帰属する当期利益予想は2600億円から2510億円へ90億円引き下げました。前期比では10.3%減となる見通しです。

売上収益が10.2%増える一方で最終利益が10.3%減るため、市場は「売上が増えても利益が思ったほど増えない」と受け止めます。その一因が、エンハーツなどの販売増に伴って増加する「プロフィット・シェア」です。

第一三共はエンハーツを英アストラゼネカと共同で開発・販売しており、海外の一部地域では、エンハーツの販売から得られる利益を契約に基づいて提携先と分け合う仕組みになっています。会社側はDXd ADC製品のプロフィット・シェア費用を、従来予想の3700億円から3950億円へ250億円引き上げました。

エンハーツが売れること自体は大きなプラスですが、売上増がそのまま利益増になるわけではありません。プロフィット・シェアに加え、研究開発費や販売・管理関連の費用なども利益を左右します。

第二の理由は、エンハーツの成功そのものが、すでに株価へかなり織り込まれてきたことです。

株式市場が見るのは現在の業績だけではありません。数年後の利益まで先回りして株価に反映します。第一三共の2026年3月期の売上収益は2兆1230億円に達し、第5期中期経営計画で掲げた1兆6000億円を大幅に上回りました。がん領域の売上収益も9540億円まで拡大しています。エンハーツが大型薬になること自体は、もはや市場にとって驚きではなくなりました。

市場が次に求めているのは「エンハーツの次」です。有力候補の一つが抗TROP2 ADC「ダトロウェイ」です。2027年3月期第1四半期の売上収益は239億円と前年同期から153億円増加し、通期では1272億円を見込んでいます。

ただし、製薬株では「薬が売れている」だけでは株価上昇につながりません。市場があらかじめ期待した以上の成長を実現できるかどうかが問われます。期待値が高い企業ほど、好材料が出ても「想定通り」と判断され、逆にわずかな失望材料で株価が大きく下がることがあります。

エンハーツ依存と「次の大型薬」が最大の焦点

第三の理由は、エンハーツへの依存度が高くなっていることです。2027年3月期に第一三共が見込む「5DXd ADCs」の売上収益は合計1兆2003億円。このうちエンハーツだけで1兆300億円を占めます。圧倒的な収益源である一方、裏返せばエンハーツの成長鈍化や競争激化が企業価値に大きな影響を与える構造です。

さらに国内の主力製品だった抗凝固剤「リクシアナ」は、第1四半期売上が377億円から330億円へ46億円減少しました。製薬会社では主力薬の特許満了後に後発医薬品が参入し、売上が急減する「パテントクリフ」への対応が欠かせません。

そこで第一三共が目指しているのが、ADC技術を利用して大型薬を連続的に生み出すビジネスモデルです。現在はダトロウェイに加え、HER3-DXd、I-DXd、R-DXdなどの開発が進んでいます。2027年3月期予想では、ダトロウェイ1272億円、HER3-DXd120億円、I-DXd184億円、R-DXd128億円の売上収益を見込んでいます。

とりわけ重要なのは、これらの後続ADCがエンハーツに続く大型薬へ育つかどうかです。成功すれば、「エンハーツという1つのヒット薬を持つ会社」から「ADC技術によって大型薬を継続的に生み出せる会社」へと市場評価が変わります。逆に臨床試験や承認が期待通りに進まなければ、「エンハーツ一本足打法ではないか」という懸念は消えません。

株価反転には「利益成長」と第2、第3の大型薬が必要

第一三共株を今後判断するうえで、エンハーツの売上だけを見るのは十分ではありません。注目すべきポイントは3つあります。

1つ目は、エンハーツの売上拡大がどこまで利益成長につながるかです。プロフィット・シェアや研究開発費などを吸収しながら利益率を高められるかが問われます。

2つ目は、ダトロウェイの成長です。売上収益1000億円規模を超え、エンハーツに続く世界的な大型薬へ育つことができるかが焦点となります。

3つ目がI-DXdなど後続ADCの臨床開発です。「第3、第4の柱」が見えてくれば、市場の評価は大きく変わる可能性があります。

第一三共の成長そのものが止まったわけではありません。第1四半期の売上収益は21.1%増加し、エンハーツの通期売上予想は1兆円を突破しました。それにもかかわらず株価が2024年8月から一時6割以上下落したのは、市場が第一三共に求めるハードルが、それだけ高くなったことの裏返しともいえます。

かつて問われていたのは「エンハーツは成功するのか」でした。しかし、現在は「エンハーツの成功を利益成長につなげられるか」「その次の大型薬を生み出せるか」が問われています。

第一三共の株価反転を決めるのは、エンハーツの販売記録だけではありません。その先にある第2、第3の成長の柱を市場に示し、ADC技術が持続的な成長を生むことを証明できるかどうかでしょう。

文=KIJIKUL編集部
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