紳士服業界で首位交代!「洋服の青山」の苦戦と万年2位の「AOKI」の大逆転

紳士服業界で歴史的な出来事が起きました。2026年3月期決算で、長年トップを守ってきた青山商事が連結売上高1890億円となり、1945億円のAOKIホールディングスに初めて首位の座を明け渡したのです。かつてロードサイド型紳士服チェーンの成功モデルを築いた「洋服の青山」は、なぜ王者の座から転落したのでしょうか。一方、「万年2位」と呼ばれたAOKIは、なぜ逆転できたのでしょうか。

青山商事を抜いたAOKIの歴史的逆転

紳士服業界の勢力図が大きく塗り替わりました。

2026年3月期決算で、青山商事の連結売上高は前期比3.4%減の1890億円、営業利益は106億円、純利益は69億円となりました。一方、AOKIホールディングスは売上高1945億円、営業利益169億円を計上し、初めて売上高で青山商事を上回りました。売上高の差は約55億円にすぎません。しかし、この数字以上に象徴的なのは、「紳士服業界の王者」が交代したという事実です。

1970年代以降、日本の紳士服量販店市場は「洋服の青山」が切り開いてきました。地方都市から全国へ店舗網を広げ、「スーツはロードサイドで買う」という新しい購買スタイルを定着させたのが青山商事です。その牙城が、ついに崩れたのです。

もっとも、スーツ事業単体では依然として青山商事の規模が大きく、ビジネスウェア事業の売上高は1242億円、AOKIのファッション事業は1028億円でした。つまり逆転を生んだのは、スーツ事業ではなく、それ以外の事業だったのです。

現在では当たり前になった郊外型大型店ですが、そのビジネスモデルを築いたのが青山商事でした。1974年、広島県東広島市で開業した「洋服の青山」は、ロードサイド型紳士服専門店の先駆けとされています。

それまでスーツは百貨店や個人テーラーで購入する高額商品でした。しかし青山商事は、「豊富な品ぞろえ」「分かりやすい価格」「郊外立地による大型店舗」「大量仕入れによる低価格」という新しい販売手法を確立します。

モータリゼーションの進展と高度経済成長を追い風に、「車でスーツを買いに行く」という文化を作り上げました。1980~90年代には全国へ急速に出店を進め、「洋服の青山」は業界トップブランドとして君臨します。AOKIも同じロードサイド戦略を取りましたが、青山商事との差は常にあり、「万年2位」という立場が続いていました。

ところが、この成功体験こそが後の経営判断に影響を与えることになります。

勝敗を分けたのは「多角化」と「本業依存」

紳士服業界が苦境に陥った最大の理由は、競争ではありません。市場そのものが縮小してしまったことです。2000年代以降、「クールビズ」が普及し始め、ビジネスウェアは少しずつカジュアル化していきました。

そして決定打となったのがコロナ禍です。リモートワークの定着により、「毎日スーツを着て出勤する」という働き方そのものが急速に減少しました。オンライン会議ではジャケットだけを着れば済み、そもそも自宅勤務では私服で仕事をする人も増えました。

その結果、青山商事が公表するメンズスーツ販売着数は、「2016年3月期 222万着」から「2026年3月期 95万着」と、この10年間で半分以下に減少しました。平均販売単価は約2万7000円から約3万5000円へ上昇したものの、数量減を補うことはできませんでした。

2026年3月期も既存店売上高は95.8%となり、販売着数は95万5000着まで減少しています。さらに近年は猛暑の長期化も逆風です。夏場にスーツを着る人が減り、秋冬商戦も後ろ倒しになっています。

もはやスーツ市場の縮小は一時的な景気変動ではなく、「構造不況」と考えるべきでしょう。

同じ市場環境の中で、なぜ両社の明暗は分かれたのでしょうか。最大の違いは、事業ポートフォリオでした。AOKIは1990年代から「スーツだけでは将来は厳しい」と考え、多角化を進めます。

現在では、
・快活CLUB
・コート・ダジュール
・FiT24
・アニヴェルセル
・不動産事業
などを展開しています。2026年3月期にはエンターテインメント事業だけで767億円を売り上げ、営業利益は72億円となりました。ファッション事業の営業利益85億円に匹敵する収益源へと育っています。

一方の青山商事も、
・ミスターミニット
・ダイソー運営会社(青五)
・フランチャイズ外食
・カード事業
・印刷・メディア
などへ事業を広げています。しかし2026年3月期を見ると、ビジネスウェア事業だけで1242億円を売り上げ、依然としてグループ売上高の約7割を占めています。

つまり、AOKIは「スーツが不振でも他事業が支える会社」、青山商事は「スーツが悪いと会社全体が悪くなる会社」という違いが生まれています。これは典型的な事業ポートフォリオの差といえるでしょう。

「ポスト・スーツ時代」の勝者になる条件

もっとも、青山商事も手をこまねいているわけではありません。同社は今後5年間で、非ビジネスウェア事業の売上比率を現在の約3割から5割近くまで引き上げる目標を掲げています。

成長の柱として期待するのが、「ミスターミニット」を中心とする総合リペアサービス事業や、フランチャイジー事業、新規M&Aです。特にミスターミニットでは、「スーツケース修理」「高級時計修理」「印鑑作成」などのサービスを拡充しています。

さらに新規事業部を設置し、アパレルに限定しないM&Aも積極的に検討しています。かつて「スーツ一本」で勝負した会社が、本格的な事業転換に踏み切ろうとしているのです。

今回の首位交代は、単なる順位の入れ替わりではありません。「勝ち続けた企業ほど変化しにくい」という経営の難しさを象徴しています。青山商事はロードサイド型紳士服チェーンという革新的なビジネスモデルを築き、日本全国に店舗網を広げました。しかし、その成功が長く続いたことで、本業依存から抜け出すタイミングは結果として遅れました。

一方、AOKIは「2番手」だったからこそ危機感を持ち、多角化を積み重ねてきました。市場が縮小してから慌てて事業を広げることは容易ではありません。新しい柱を育てるには10年、20年という時間が必要だからです。もちろん、AOKIも安泰ではありません。ネットカフェやカラオケ市場も成熟しており、新たな成長戦略が欠かせません。

それでも、複数の収益源を持つ企業のほうが環境変化への耐性は高いといえるでしょう。スーツ需要は今後も劇的に回復する可能性は低く、「必要なときだけ買う商品」へと変化していくと考えられます。その中では、オーダースーツや高付加価値商品、ビジネスカジュアル、レディース分野の強化に加え、スーツ以外の収益源をいかに育てられるかが企業価値を左右します。

今回の首位交代は、「洋服の青山」の終わりを意味するものではありません。むしろ、日本を代表する紳士服チェーンが「ポスト・スーツ時代」にどう生まれ変わるのか、その挑戦の始まりと見るべきでしょう。

成熟市場で生き残る企業に求められるのは、過去の成功体験ではなく、変化を前提に自らを変え続ける力です。AOKIと青山商事の競争は、紳士服業界だけでなく、日本企業全体が直面する「変革」の象徴として、今後も注目されるテーマとなりそうです。

文=KIJIKUL編集部
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