「調子に乗って傲慢になるのが怖い!」社長が毎年「同じ講義」に通う理由

第3回
同じ講義を何年も聞き続けることに意味はあるのでしょうか。伝説の経営コンサルタント・一倉定氏の講義には、毎年全国から数百人もの社長が集まりました。内容や事例はほとんど覚えているにもかかわらず、多くの経営者は高額な受講料を払い続けます。その理由は、成功するほど誰も叱ってくれなくなる社長だからこそ、経営の原理原則に立ち返り、自らの慢心や傲慢を戒める場が必要だったのです。

社長が毎年講義に通い続ける理由

東京駅から徒歩5分、皇居前のパレスホテル、地下1階のゴールデンルーム。350名を超える異業種の社長が一堂に集い、大きな声で互いの近況や市場、お客様に関する情報を交換し、会場は独特の熱気に包まれていました。特に前列は10年、20年と通い続けている常連組です。

親子で机を並べ、家族ぐるみの付き合いをしているオーナー一族も多く、さながら同窓会の雰囲気です。午前10時きっかりに、ざわついていた会場が一倉定先生(社長専門の経営コンサルタント)の登場とともに、ピーンと張りつめた空気に変わり、社長を叱り飛ばすような、教え諭すような一倉節は午後4時まで続き、初日の夕方には、個別相談を希望する社長の長蛇の列ができました。

私の手元には、当時、一倉先生が講義で使用していた8冊の受講用テキストがあります。講義は2月から始まり、東京・大阪・福岡で年間8コース、各2日間の日程で開催されていました。今でもページをめくっていくと、行間から一倉先生の声が聞こえてくるようです。

「いったい、社長はどっちを向いて経営をしているんだ!」「業績不振を社員のせいにするとは、社長の怠慢以外の何ものでもない」と睨むように怒鳴る声が響いてきます。

当時、若かった私は、毎年毎年同じように聞こえる話を、多くの社長がなぜ高いお金を払ってまで聞いているのか不思議に思っていました。親しくさせていただいた社長に尋ねたことがあります。「傘屋さんの事例の次は、千葉の食品工場の商品開発で……、と次の冗談まで覚えているほどなのに、なぜ出席されるのですか」と。

K社長はニヤッと笑って、「同じ話でも、こっちの受け止め方によって、営業方針を変えなきゃとか、新事業の糸口が少し見えて腹が据わったなど、気づきが毎回違ってくるんだよ」と話してくれました。

また、富山から来られているA社長は「一倉先生に『とにかく3年間は私の講義を聴き続けなさい。それと、なるほどと思ったことは、とにかく決めて実行しなさい』と諭され、素直に従ったんだよ」と答えました。「社長のあり方に悩んでいた当時の私は、その考え方に驚くばかりでした。3年のうちに会社がみるみる良くなり、いつの間にか、一倉教の信者になっていた」と懐かしそうに話されたのです。

社長を支える一生の「経営哲学」

そして、初日が終われば、参加者同士がそれぞれ夕食を兼ねて集い、経営論を肴に自分の体験や考え方を戦わせて2日目の朝を迎えるのが、毎回の講義風景でした。

夜の宴会も実際には勉強の貴重な場で、他業種では当たり前に行われていることが自社の問題解決の決定的なヒントになったり、先輩社長の体験談が自社の兄弟経営の参考になったりするなど、地元や同業者の集まりでは相談しづらい問題についても、実学をもとに活発な議論が交わされていたのです。

身一つで会社を興し、売上を10億、30億、100億と伸ばして今日を築いた人たちは、幹部の造反、取引先の倒産、値崩れや価格競争、親族間の争いなど、皆が同じような困難を乗り越えてきています。そこには社長にしかわからない苦労があり、本音で語り合える「同じ価値観を持つ仲間こそが最高の財産だ」とも教わりました。

大阪の金属加工業の社長は、一倉先生の教えを「背中にズドーンと太い柱が建ったようだ」と表現されました。お陰で迷いが吹っ切れたとも。

もちろん、その柱は人によって「お客様第一主義」であったり、「環境整備」であったりします。有名になった「電信柱が高いのも郵便ポストが赤いのも社長の責任」「経営計画書」「事業の定義づけ」など、社長の生涯を通して変わることのない信念を形作っているのです。

お亡くなられたユニ・チャームの創業者、高原慶一朗社長(当時)もそのお一人で、大変勉強熱心な方であり、東部一倉社長会の主要メンバーを長年務めていただきました。ご自身の著書の中でも「原因自分論」という独特の表現で社長の覚悟を表明し、言い訳をせずお客様である女性の満足・不平不満の解消に経営資源を集中され、社業発展に尽力されました。

一倉先生は、何年たっても変わらない「事業経営の根幹」を社長に叩き込むとともに、進化・複雑化するお客様の要求に応えるため、「自社をつくり変え続ける社長の姿勢」が重要だと説きました。この教えは、業種や時代を問わず通用するものです。しかしながら、昨今気になるのは、欧米から直輸入されたカタカナの経営用語が氾濫し、それこそが新しい経営であるかのように扱われていることです。ところが、新しい経営概念も5年もすれば誰も口にしなくなり、また新しい用語に取って代わられます。

言葉は魂であり、長く生き続ける言葉こそ本質であり、それを見抜く力を社長は持たなければなりません。

成功した社長ほど叱られる場を求める

そんな社長が毎月集う勉強会でも、特に2月に開かれる年初のコースは特別な光景が見られます。自分が予約した席には座らず、会場外の前室で、天井スピーカーから伝わる先生の肉声を聴いている社長が数人いました。テキストは一応広げていましたが、メモは取りません。コーヒーは飲み放題だったため、コーヒーを片手に、ときにはタバコを吸いに席を離れることもありました。

知る人ぞ知る伝説のコンサルタント・一倉定氏の教えを、事例を交えたコンパクトな1冊です。

「あの~、S社長、いったい何やっているのですか? 講義も聞かないで……」と聞くと、「いいんだよ! ここで一倉先生に怒られていれば身が引き締まって、1年間ぐらいは油断しないから」と話します。「お陰様で業績も順調になったら、ヨイショを言いに来る人はいても誰も文句を言ったり、叱りに来る人がいないんだよ」「どんなに気をつけているつもりでも、ついつい調子に乗って傲慢になるのが一番怖いからなぁ」と続けます。

10時間の講義の中で、「あ~、あれやっていないな~というのが一つあれば十分なんだよ」「いっぱいメモ取ってもそんなにいっぱいできないし」。

確かに、会場の後方で一言一句聞き漏らすまいと熱心に耳を傾け、頭も上げずにノートをびっしり埋めているのは、初参加か、参加経験の浅い社長が大半でした。ベテラン組は宙を見つめながら、たまにボールペンで何か単語を書いています。

今ならその聞き方も理解していますが、私もまだ経験の浅かった当時は、不思議な光景でした。

お客様と接する現場や工場内、営業担当者の商談風景などが、社長の頭の中にくっきりと浮かび、一倉先生の言葉が「これではダメだ」と自社に向けられているように聞こえていたのでしょう。その最たるものが、「社長自身が現状に満足し、わがままで傲慢になり、お客様を見なくなった姿」なのです。

S社長はその言葉どおり、翌年2月にも、1杯2万~3万円になるコーヒーを飲みに来て、怒られている自分の姿を思い浮かべ、また1年間走り続けるのです。

※本稿は作間信司著『伝説の経営コンサルタント 一倉定の社長学』(プレジデント社)から一部を抜粋し、再編集したものです。

文=作間信司(日本経営合理化協会専務理事/執筆時)
作間信司(さくま・しんじ)
1981年、明治大学経営学部卒業後、大手インテリア会社にて販売戦略などの実務経験を積んだ後、1983年、日本経営合理化協会入協。事業の企画・立案を担当する傍ら、会長牟田學の薫陶を受け、全国の中堅・中小企業の経営相談に携わる。以来、40年以上の豊富な指導経験からオーナー経営者との親交も非常に広く、その親身のコンサルティングに多くの社長が全幅の信頼を寄せる。メーカー・商社・小売・サービス業など、現在まで300余社を指導する気鋭のコンサルタント。

※本記事は情報提供を目的として作成したものであり、特定の企業、商品、サービス、金融商品、投資その他の取引を推奨または勧誘するものではありません。掲載内容は記事公開時点の公開情報等に基づいており、意見・見解・予測などは執筆者または編集部の判断によるもので、予告なく変更される場合があります。内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、最終的な判断はご自身の責任において行ってください。【KIJIKUL編集部】

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