GMOが原則出社を推奨!AI時代、オフィスでなければ成果は上がらないのか
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GMOインターネットグループが、約6年半にわたって続けてきた在宅勤務のグループ推奨を終了しました。コロナ禍ではリモートワークの先駆けだった企業が、なぜ出社回帰へとかじを切ったのでしょうか。背景には、生産性やコミュニケーション、意思決定のスピードだけでなく、生成AI時代の働き方そのものを見直す狙いも見え隠れします。一方で、働く側の満足度調査では、フルリモートやハイブリッド勤務への支持も根強く残っています。
GMOが在宅勤務の推奨を終了した本当の理由
新型コロナウイルスの感染が広がり始めた2020年、多くの企業は急きょ在宅勤務へ移行しました。その中でもGMOインターネットグループは、約4000人をいち早くリモートワークへ切り替え、国内企業における大規模な在宅勤務の先駆けとして注目されました。
新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いた後、同社は原則出社へと段階的に移行しました。2023年2月には週2日の在宅勤務推奨を廃止しましたが、その後も週1日を目安とする在宅勤務の運用を残していました。
しかし、2026年7月、熊谷正寿会長兼社長は、グループとして推奨してきた在宅勤務を終了したと発表しました。熊谷氏はその背景として、コミュニケーションの活性化や意思決定の迅速化、組織全体の生産性向上などを挙げました。
発表当初は「時間当たりのタイピング数が減少した」という説明が大きな話題となりましたが、その後、熊谷氏は表現が誤解を招いたとして謝罪しました。タイピング数だけを理由に制度変更を判断したわけではなく、在宅勤務という働き方自体を否定するものでもないと説明しています。家庭の事情やオフィス環境など、個別の事情がある場合には、グループ各社の判断で在宅勤務を認める余地も残されています。
熊谷氏自身は生成AIを積極的に活用し、「2カ月で10万行のコードを書いたが、キーボードはほぼ使わず音声入力だった」と語っています。また、オフィスの全席に高性能マイクを順次設置するなど、AIを前提とした新しい働き方も推進しています。
そのため、当初の「タイピング数」に関する説明だけが切り取られ、在宅勤務見直しの理由として受け止められたことは、熊谷氏の真意を十分に伝えるものではなかったといえます。今回の制度変更の本質はタイピング数そのものではなく、AI時代における組織全体の生産性やコミュニケーションのあり方にあったと考える方が自然でしょう。
実際、米アマゾンが原則週5日の出社を求めるなど、世界の大手IT企業では出社日数を増やす動きが広がっています。グーグルやメタでも、一定日数の出社を求めるハイブリッド勤務が定着しています。日本でも楽天グループやLINEヤフーなど、出社日数を増やしたり、フルリモート勤務を見直したりする企業が相次いでいます。コロナ禍で急速に広がったリモートワークは、新たな局面を迎えています。
在宅勤務はコロナ禍の「あだ花」だったのか
では、在宅勤務は失敗だったのでしょうか。必ずしもそうではありません。プロフェッショナルバンクが2025年に実施した調査では、フルリモート勤務者の90.4%が現在の働き方に「非常に満足」または「やや満足」と回答しています。
満足している理由で最も多かったのは、「通勤による身体的・精神的疲労がない」ことでした。毎日の満員電車から解放され、身体的・精神的な負担が軽くなることは、大きな利点です。通勤時間を睡眠や家族との時間、自己研鑽に充てられることも、多くのビジネスパーソンにとって大きなメリットでした。
一方、企業側が重視するポイントは異なります。出社勤務を支持する理由として多いのは、「報告・連絡・相談がしやすい」「意思決定が早い」「オフィスの方が集中できる」といった項目です。つまり、働く側は「生活の質」を重視する傾向がある一方、企業側は「組織としての成果」をより重視しています。両者では、働き方を評価する視点が必ずしも一致していないのです。
さらに、リモートワークには数字では測りにくい課題があります。その代表例が新人教育です。先輩社員の仕事を間近で見ながら学ぶOJTは、長年、日本企業の人材育成で大きな役割を果たしてきました。ところがオンラインでは、「雑談から学ぶ」「会議の空気を読む」「顧客とのやり取りを見る」といった暗黙知が伝わりにくくなります。
また、新しいアイデアは予定されたオンライン会議だけでは生まれにくいという指摘もあります。廊下で偶然会った社員との会話や昼食時の雑談など、偶発的なコミュニケーションが新規事業につながるケースは少なくありません。こうした価値は数値化できませんが、企業経営では非常に重要です。
一方で、リモートワークには集中力の向上というメリットがあります。企画書作成やプログラミング、分析業務など、一人で深く考える仕事では、自宅の方が生産性が高いケースも珍しくありません。つまり、「在宅勤務か出社勤務か」という二者択一ではなく、仕事内容によって働く場所を変える方が、組織全体として高い成果につながる可能性があります。
働き方改革は終わったのではなく次の段階へ
GMOの決定を見て、「働き方改革は終わった」と考える人もいるかもしれません。しかし、それは少し早計でしょう。実際、前述のプロフェッショナルバンクの調査でも、理想の働き方として「ハイブリッド勤務」を選ぶ人が多くなっています。出社とリモートを組み合わせることで、それぞれの長所を取り入れたいという考え方です。
ハイブリッド勤務は、企業側にもメリットがあります。例えば、新入社員教育や重要会議、新規事業の議論は出社で行い、資料作成や分析業務は在宅で進めます。このように仕事の内容によって働く場所を変える方が、組織全体として高い成果につながる可能性があります。さらに生成AIの普及は、この流れを加速させるでしょう。AIは資料作成やプログラム開発、文章作成など、一人で完結する仕事を大きく効率化します。
一方、AI時代に人間の役割がより重要になる仕事とは、どのようなものでしょうか。創造力、交渉力、共感力、チームビルディング、組織運営など、人との関わりが中心となる仕事です。AIが普及するほど、人と人が直接向き合う価値はむしろ高まる可能性があります。だからこそ、多くの企業が「出社」を見直しているのでしょう。
ただし、すべての企業に同じ答えが当てはまるわけではありません。IT企業と製造業では仕事の性質が違います。営業職と研究職でも異なります。子育て中の社員や家族の介護を担う社員にとっては、柔軟な働き方が優秀な人材の確保につながる場合もあります。企業は「全員出社か、全員リモートか」という極端な選択ではなく、自社の業務や人材構成に合わせて最適解を探すことが求められます。
GMOインターネットグループによる在宅勤務推奨の終了は、一企業の制度変更にとどまらず、日本企業の働き方が新たな転換点を迎えつつあることを象徴する動きといえるでしょう。
コロナ禍では感染防止が最優先でしたが、現在は「成果をどう最大化するか」が経営の中心テーマになりました。企業はコミュニケーションや人材育成、意思決定のスピードを重視して出社回帰を進める一方、社員は通勤負担の軽減やワークライフバランスを高く評価しています。両者の視点は必ずしも一致していません。
重要なのは、「どこで働くか」ではなく、「どの仕事を、どの場所で行うのが最も成果につながるか」という発想です。生成AIの普及によって働き方は今後さらに変化するでしょう。働き方改革は終わったのではありません。むしろ、AI時代にふさわしい新たな働き方改革が始まったと捉えることができるのではないでしょうか。
文=中田英明(経済ジャーナリスト)
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