最低賃金は1176円へ!上げ幅縮小でも中小企業の経営は耐えられるのか

2026年度の最低賃金は、全国加重平均で時給1176円となる見通しです。現在の1121円から55円、率にして4.9%の引き上げで、前年度の66円、6.3%を下回ります。ただし、中小企業にとって負担が軽くなったとは言い切れません。原材料費や光熱費の上昇が続く中、人件費の増加を価格に転嫁できなければ、利益の減少や営業時間の短縮、採用抑制につながる可能性があります。

最低賃金は全国平均1176円へ

厚生労働省の中央最低賃金審議会は2026年7月28日、2026年度の地域別最低賃金の引き上げ額について答申をまとめました。

引き上げ額の目安は、都道府県の経済状況に応じて、Aランクが54円、BランクとCランクが56円です。各都道府県が目安どおりに引き上げた場合、全国加重平均は現在の1121円から55円上昇し、1176円となります。引き上げ率は4.9%です。

ただし、1176円は全国一律で決定した最低賃金ではありません。今後、各地方最低賃金審議会が地域の物価や賃金水準、雇用情勢、企業の支払い能力などを踏まえて具体的な金額を審議します。

中央審議会が示した金額は、あくまで地方審議の「目安」です。近年は人手不足や近隣県との人材獲得競争を背景に、国の目安を上回る引き上げを決める地域が増えています。最終的な全国加重平均が1176円を上回る可能性もあります。

前年度は、全国加重平均が過去最大の66円、6.3%上昇し、1121円となりました。2026年度は前年度より11円少なく、引き上げ率も1.4ポイント縮小します。背景には、物価上昇率の鈍化に加え、価格転嫁が難しい中小企業の経営状況への配慮があったとみられます。

しかし、55円という引き上げ幅は依然として高水準です。伸び率4.9%は、多くの中小企業が売上や利益を毎年安定的に増やせる水準を上回ります。

最低賃金で1日8時間、月20日働く人の場合、時給55円の引き上げによって、単純計算で月8800円、年間10万5600円の増収になります。一方、企業側には従業員1人当たり同額の賃金負担が生じます。社会保険料や雇用保険料、残業代などへの影響も考えれば、実際の負担はさらに増えます。

前年度より上げ幅が小さくなったからといって、中小企業の負担が軽くなったわけではありません。

最低賃金は国の目安を基に都道府県ごとに決まる

最低賃金は、最低賃金法に基づき、企業が労働者に支払わなければならない賃金の最低額です。正社員だけでなく、パート、アルバイト、契約社員、外国人労働者など、原則としてすべての労働者に適用されます。

決定までの手続きは二段階です。まず、厚生労働相の諮問を受けた中央最低賃金審議会が、全国の物価や賃金、経済状況を検討し、都道府県ごとの引き上げ額の目安を示します。

2026年度は、全国47都道府県をA、B、Cの3ランクに分類しました。Aランクは東京、神奈川、埼玉、千葉、愛知、大阪の6都府県で、引き上げ目安は54円です。Bランクの28道府県とCランクの13県は、いずれも56円となりました。

最低賃金の高い大都市圏より地方の引き上げ額を大きくしたのは、地域間格差を縮める狙いがあるためです。地方では、より賃金の高い都市部や隣県へ若年層が流出する問題が深刻化しています。最低賃金の底上げには、地域内に働き手をつなぎ留める意味もあります。

次に、各都道府県の地方最低賃金審議会が、中央審議会の目安を参考に、地域の実情を踏まえて審議します。地方審議会は、労働者側、使用者側、公益側の委員で構成され、賃金実態や生活費、雇用情勢、企業収益などを検討します。その答申を受け、都道府県労働局長が最低賃金額と発効日を決定します。

したがって、1176円は「全国一律の最低賃金」ではなく、各都道府県の改定額を労働者数で加重平均した場合の見込みです。国の目安に法的拘束力はなく、地方審議会は地域事情に応じて上回る金額を決めることもできます。

近年は、国の目安を上回る「上積み」が目立ちます。企業側の負担は増えますが、地方自治体にとっては、人材流出を防ぎ、地域の賃金水準を引き上げる政策的な意味があります。最低賃金の議論は、労働者の生活を守る政策であると同時に、地域間の人材獲得競争という側面を強めているのです。

中小企業が耐えるには価格転嫁と生産性向上が不可欠

最低賃金が55円上がった場合、中小企業にはどの程度の負担が生じるのでしょうか。

最低賃金に近い時給で働くパート従業員が20人いて、1人当たり週30時間勤務している店舗を想定します。

55円×週30時間×52週×20人で計算すると、年間の賃金負担は約171万6000円増えます。

この金額には、事業主が負担する社会保険料や雇用保険料の増加は含まれていません。また、最低賃金に近い従業員だけを引き上げると、店長やリーダーとの賃金差が縮まるため、上位層の賃金も見直す必要が生じます。実際の人件費増加額は200万円を超える可能性があり、店舗数や対象者が多ければ、負担は数千万円単位に膨らみます。

日本商工会議所の2026年調査では、賃上げを実施済み、または実施予定の企業は7割を超えました。一方、正社員の賃上げ率は全体で4.01%、従業員20人以下の小規模企業では3.38%にとどまりました。小規模企業ほど賃上げ余力が乏しい実態が表れています。

企業が人件費の増加を吸収する方法は、主に価格転嫁、生産性向上、事業構造の見直しの三つです。

第一は、販売価格や取引価格への転嫁です。商品やサービスを値上げできれば、人件費増加分を売上で補えます。しかし、取引先との力関係が弱い下請け企業や、価格競争の激しい飲食、小売り、介護、宿泊などでは、値上げが顧客離れや受注減少につながるおそれがあります。大企業や発注側企業が、労務費の上昇を取引価格に反映することが欠かせません。

第二は、労働生産性の向上です。単に人を減らすのではなく、限られた人数で高い付加価値を生み出す仕組みが必要です。セルフレジ、モバイルオーダー、予約システム、在庫の自動発注、シフトの自動作成、生成AIによる文書作成など、省力化につながる技術が選択肢になります。

重要なのは、粗利益を総労働時間で割った「人時生産性」を把握することです。利益を生まない作業や時間帯を可視化し、営業時間、商品構成、シフト、業務手順を見直す必要があります。

第三は、事業構造そのものの見直しです。採算の取れない商品やサービスを続けたまま、賃金だけを引き上げれば、経営は行き詰まります。低採算商品の縮小、営業時間の短縮、不採算店舗からの撤退、高付加価値商品の開発など、厳しい判断を迫られる企業も出てくるでしょう。

政府は、遅くとも2030年代前半のできる限り早い時期に、最低賃金の全国加重平均を1500円に引き上げる方針です。1176円から1500円までは324円あります。今後も高い引き上げが続くとすれば、企業は最低賃金改定を一時的な負担として捉えることはできません。

最低賃金の引き上げは、労働者の生活を支え、消費を下支えするために必要です。一方、利益や生産性の向上を伴わない賃上げは、中小企業の収益を削り、雇用や投資を減らす結果にもなり得ます。

前年度より上げ幅が縮小したとはいえ、4.9%の上昇は決して小さくありません。中小企業が最低賃金1176円の時代を乗り越えられるかどうかは、増加した人件費を価格に転嫁し、省力化投資によって生産性を高められるかにかかっています。

最低賃金の引き上げを「企業が耐えるべきコスト」で終わらせず、価格転嫁の徹底、生産性向上への支援、取引慣行の是正を一体で進められるかが問われているのです。

文=KIJIKUL編集部
※本記事は情報提供を目的として作成したものであり、特定の企業、商品、サービス、金融商品、投資その他の取引を推奨または勧誘するものではありません。掲載内容は記事公開時点の公開情報等に基づいており、意見・見解・予測などは執筆者または編集部の判断によるもので、予告なく変更される場合があります。内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、最終的な判断はご自身の責任において行ってください。【KIJIKUL編集部】

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