維新議員で問題化した「国保逃れ」全国38事業所・1万人超に拡大した深刻な実態

国民健康保険料の負担を避けるため、一般社団法人などの役員になり、低額の報酬で社会保険に加入する――。いわゆる「国保逃れ」が想像以上の規模で広がっていたことが分かりました。厚生労働省の調査で、2026年8月末までに38事業所が指導を受け、1万1610人が社会保険の資格を喪失しました。発端の一つとなったのは日本維新の会の地方議員を巡る問題です。

「国保逃れ」38事業所・1万1610人!

「国保逃れ」が、一部の政治家や個人事業主だけの問題ではなかったことが明らかになりました。厚生労働省は2026年9月14日、本来は国民健康保険や国民年金に加入すべき人が、形式的に法人の役員などになって社会保険へ加入する、いわゆる「国保逃れ」への調査状況を明らかにしました。

日本年金機構が2026年3月から8月末までに、保険料削減ビジネスへの関与が疑われる45事業所を調べたところ、38事業所が指導を受け、1万1610人について社会保険の資格喪失につながりました。わずか半年ほどの調査で1万人を超えたことになります。

そもそも、なぜこのようなことが可能だったのでしょうか。国民健康保険は主に自営業者や個人事業主、フリーランスなどが加入します。会社員が加入する健康保険では保険料を原則として会社と従業員が折半しますが、国保にはこうした事業主負担の仕組みがありません。また、会社員の健康保険にあるような「被扶養者」の仕組みも基本的にありません。

そこで目を付けられたのが、法人役員も一定の条件を満たせば健康保険・厚生年金の被保険者になれる仕組みです。厚労省の通知によると、問題となった事業所では「社会保険料の削減」をうたい、個人事業主やフリーランスを法人の役員に就任させ、健康保険と厚生年金に加入させる一方、加入者から役員報酬を上回る「会費」などを徴収していました。

つまり、会社で実際に働いているから社会保険に入るのではなく、社会保険に入るために法人役員になるという逆転した仕組みです。厚労省は、法人に「使用されている実態」がないにもかかわらず資格取得を届け出ることは、健康保険法や厚生年金保険法の規定に反すると明記しています。実態がないことが確認されれば、資格喪失の届出を提出させることになります。

「保険料削減ビジネス」のカラクリ

今回の問題で注目したいのは、「国保逃れ」が個人の節約術ではなく、ビジネスとして提供されていたことです。典型的な仕組みはこうです。

個人事業主などが一般社団法人などの役員になります。法人から低額の役員報酬を受け取り、その報酬を基準に健康保険・厚生年金に加入します。一方、加入者は法人に「会費」などを支払います。つまり、法人から報酬を受け取る一方で、それ以上のお金を法人側へ支払う「逆ざや」が生じます。それでも、国保と国民年金に加入し続けるより、会費と社会保険料を合わせた負担が少なくなれば、利用者には経済的なメリットが生まれるわけです。

しかし、厚労省は2026年3月18日の通知で、こうした仕組みに明確に線を引きました。社会保険に加入できる法人役員かどうかを判断するポイントは、大きく二つです。

一つは、実際に法人経営へ参画する経常的な労務を提供しているか。もう一つは、その仕事の対価として報酬が継続的に支払われているかです。

単に役員という肩書があればいいわけではありません。特に、厚労省は役員報酬より高い会費を法人へ支払っている場合、「実質的に業務の対価に見合った報酬を受けているものとは言えない」とし、原則として社会保険の被保険者とは認めない考えを示しました。

さらに、厚労省は9月14日、3月18日の通知を一部改正し、判断基準をさらに明確化しました。会費が役員報酬以下でも安心とは限りません。会費が報酬の多くを占め、活動内容も他の個人事業主との相互扶助的な連携にすぎない場合などは、業務の内容や頻度、実際の活動状況などを総合的に判断することになりました関連法人へ会費を払わせる形にしても、実質的に同じ法人と判断されれば対象になります。

「会費を少し下げればいい」「別会社に払えばいい」という抜け道も塞ごうとしているのです。

日本維新の会で発覚!6人除名で社会問題に

この問題が全国的に知られるきっかけの一つになったのが、日本維新の会の地方議員を巡る「国保逃れ」問題でした。維新は2026年1月、所属する地方議員らを調査し、まず兵庫県議2人、神戸市議、尼崎市議の計4人について、一般社団法人の理事に就任して社会保険に加入していたことを確認しました。

4人は一定の業務をしていたと説明していましたが、党は、議員報酬より著しく低い役員報酬を基準に社会保険料を支払っていたことなどから、「国保逃れの脱法的行為と捉えられる」と判断しました。その後の追加調査では、類似の仕組みを利用していた大阪市議と元杉並区議も判明。維新は最終的に、現職地方議員5人と元議員1人の計6人を除名処分としました。党として国保逃れを推奨した事実や組織的関与は確認されなかったとしています。

維新にとって問題が大きかった理由は、単なる保険料の問題ではありません。維新は社会保険料の引き下げを重要政策として掲げてきました。その所属議員が、制度そのものを改革するのではなく、自分だけ負担の軽い制度へ移る仕組みを利用していたとすれば、政治的な説明責任が問われます。

しかし、今回の厚労省調査でさらに重要なことが分かりました。問題は維新の議員だけではなかったのです。全国で38事業所、1万1610人という数字は、社会保険料を安くする仕組みに大きな需要があり、それを商品として提供する事業者が存在していたことを示しています。

「国保逃れ」だけを潰せば解決するのか

では、なぜここまで「保険料削減ビジネス」が広がったのでしょうか。一つには、個人事業主やフリーランスにとって、国民健康保険料や国民年金保険料の負担感が大きいことがあります。国保の保険料は所得などによって増減し、会社員の健康保険のような事業主との折半はありません。一方、法人役員になって低額の役員報酬を設定すれば、その報酬を基準に社会保険料を計算できる場合があります。

この制度の違いに「保険料を安くできます」と目を付けたのが削減ビジネスでした。ただし、今回の規制を「低い役員報酬で社会保険に入ること自体が違法になった」と理解するのは正確ではありません。

厚労省が問題としているのは、形式的な肩書ではなく実態です。9月14日の改正通知では、アンケートへの回答や勉強会への参加、単なる活動報告や情報共有、事業紹介への協力、役員同士の相互扶助的な活動だけでは、原則として「法人経営への参画を内容とする経常的な労務」と認められないと明確化しました。反対に、指揮命令権や決裁権があるか、代表者への報告業務があるか、会議以外にも実際に業務や出勤をしているかなどを総合的に判断します。

したがって、自ら会社を経営している経営者や、実際に業務を行っている法人役員まで一律に「国保逃れ」になるわけではありません。今回の1万1610人という数字が突きつけたのは、別の問題でもあります。社会保険制度が複雑で、働き方や法人との関係によって負担額に大きな差が生まれるため、その境界を利用したビジネスが成立してしまったということです。

厚労省は今後も調査と指導を続ける方針です。9月14日には法人役員だけでなく、勤務時間が極端に短い正社員などを利用した類似スキームにも対応する新たな通知を出しました。厚労省の公式サイトでも同日の通知発出が確認できます。

「国保逃れ」を封じることは当然必要です。しかし、38事業所で1万人を超える利用者が見つかった以上、なぜそれほど多くの人が保険料削減サービスを求めたのかという問題も残ります。

抜け道を一つずつ塞ぐだけでなく、個人事業主と会社員で異なる保険料負担のあり方を含め、公平で納得感のある社会保険制度をどうつくるのか。今回の「国保逃れ」問題は、制度そのものにも重い課題を突きつけています。

文=KIJIKUL編集部
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