浜岡原発「データ改ざん」調査報告書が暴いた中部電力の深刻な企業風土

中部電力の浜岡原子力発電所で発覚した地震動評価を巡る不適切行為。その全容を調べた特別調査委員会の報告書が公表されました。浮かび上がったのは、単純なルール違反ではありません。「自分たちは正しいことをしている」と信じ、不適切な行為さえ正当化する「独自の正当化理論」が一部に広がっていたという、より深刻な問題でした。
250ページ超の報告書が明らかにしたこと
問題となったのは、浜岡原発3号機と4号機の再稼働に向けた新規制基準適合性審査です。
中部電力は2014年から原子力規制委員会の審査を受けていましたが、2025年5月、原子力規制庁から地震動評価における代表波選定の適切性について確認を受けました。その後の社内調査で、審査会合で説明していた内容とは異なる方法で代表波が選定されていた疑いが判明しました。中部電力は2026年1月5日、外部専門家のみで構成する特別調査委員会を設置しました。
9月14日に公表された報告書は250ページを超えます。ここで注意したいのは、調査委員会が一連の行為を単純に「改ざん」「ねつ造」「データ不正」と表現することに慎重な姿勢を示していることです。地震動評価は極めて専門的で、手法の詳細が法令や規則で明確に決められていない部分もあります。このため個々の行為について、技術的、学術的な側面も含めて評価する必要があるとしています。
しかし、だから問題が軽いわけではありません。報告書が認定した事実には、代表波の意図的な選定や、それを合理的に見せるための事後的なデータ作成・加工、原子力規制庁に対する事実と異なる説明などが含まれます。しかも、こうした行為は長期間続き、社内外から問題を指摘される機会が何度もあったにもかかわらず、是正できませんでした。

不正を正当化した「独自の正当化理論」
報告書で最も衝撃的なのは、原因分析です。調査委員会は問題の根底に、中部電力の一部に「極めて特異な考え方」が存在していたと指摘しました。それを「独自の正当化理論」と呼んでいます。
例えば、「最終的に浜岡原発の安全性に問題がないのなら、この方法でも構わない」「技術的には間違っていない」「原子力規制委員会の要求には納得できない」「何としても早期再稼働を実現しなければならない」といった考え方です。つまり、「ルールを破っていると分かっていたが、納期に追われて仕方なくやった」という一般的な不祥事とは少し違います。
目的の重要性とルール順守を独自の判断で天秤にかけ、「自分たちは正しいことをしている」と考える。その結果、自らの行為が正しいと確信し、さらには信念すら持って不適切な行為を実行していたとみられる人や集団まで存在したといいます。調査委員会は、この「独自の正当化理論」が広がりつつあったことを「本事案に通底する原因」としています。
さらに深刻なのは、ブレーキがあったのに利かなかったことです。2019年と2021年には内部通報制度「ヘルプライン」に問題を指摘する通報がありました。しかし、その事実関係の調査を問題の当事者である原子力土建部に依頼していました。
2021年の通報では、相談者から「意図的な選定をしている」と改めて指摘されたにもかかわらず、ヘルプライン事務局は最終的にコンプライアンス上の問題はないとして対応を終了しました。
調査委員会は、監視・牽制の仕組み自体は存在していたものの、独立性や客観性を欠き、実効的に機能しなかったと結論づけています。「内部通報制度があります」というだけでは、不正は防げないことを示した事例といえるでしょう。
「経営陣は不正を指示せず」それでも社長・会長は退任へ
では、経営陣はどこまで関与していたのでしょうか。今回の調査では、経営陣がデータの操作や事実と異なる説明を直接指示したとは認定されていません。一方で、報告書は経営側の責任につながる重要な問題を指摘しています。それが「新規制基準適合性審査の実態に対する経営層の理解の欠如」です。
中部電力にとって浜岡原発の早期再稼働は重要な経営目標でした。しかし実際の審査には、規制委員会からの指摘や他社の審査日程との競合など、自社の努力だけでは解消できない遅延要因がありました。
それにもかかわらず、一部の経営層は遅れを会社側の努力不足ととらえ、担当部署などを叱責しました。調査委員会は、それが「通常の業務遂行では達成困難な目標」の達成を迫る圧力となり、不適切行為が行われた要因の一つになったと認定しています。
2022年には林欣吾社長が取締役意見交換会で、再稼働に向けて「議論をすることではなく、全力で走ることが重要」と発言していました。もっとも報告書は、こうした発言の一部について、厳しい表現が心理的負担になった可能性を認めながらも、発言内容そのものが不当だったとは認定していません。
ここが今回の問題の難しいところです。経営陣が「データを操作しろ」と命じたわけではありません。しかし、早期再稼働を当然の前提とし、実態を十分理解しないまま現場へ達成困難な目標を求めれば、「何としても結果を出さなければならない」という空気を生む可能性があります。
中部電力は報告書を受け、林社長と勝野哲会長が9月30日付で退任し、10月1日付で安井稔氏が社長に就任すると発表しました。会社自身も、異動の理由を「経営責任を明確化するため」としています。
さらに中部電力は、浜岡原発3、4号機について、申請資料や審査対応の信頼性に「重大な疑義」が生じたとして、新規制基準に係る原子炉設置変更許可申請などを取り下げることも決めました。
「企業風土を変える」で本当に不正はなくなるのか
問題はここからです。中部電力は「組織風土・企業文化」の改革を掲げています。調査委員会も、コンプライアンス人材の配置、人材の流動化、外部専門家によるチェックなどを提言しています。会社側も原子力部門のキーポジションへの他部門・外部人材の導入や、部門間ローテーションなどを予定しています。
しかし、「企業風土」という言葉だけで今回の問題を片づけてしまうと、原因がかえって曖昧になる危険があります。報告書が明らかにしたのは、もっと具体的な仕組みの問題だからです。
高度な専門業務が少数の担当者に属人化してブラックボックスになった。内部通報があっても、問題を指摘された部署自身が調査した。経営陣は現場の実態を十分に把握できないままスケジュールを求めた。そして異論を唱える人の意見が排除されやすかった――。必要なのは、社員に「コンプライアンスを守ろう」と呼びかけることだけではありません。
専門部署を外から検証できる仕組みをつくること、内部通報の調査を当事者に委ねないこと、経営目標の実現可能性を現場と検証すること、そして経営会議で「再稼働を急ぐべきではない」という反対意見まで真正面から議論できる仕組みをつくることが重要です。
調査委員会自身も、経営層が第一線の担当者から直接説明を受ける機会や匿名アンケートなどを設け、現場と経営の認識の乖離を防ぐことを提言しています。また、現場の実情から離れた目標設定が過度な圧力となり、不適切行為を誘発するリスクまで明記しています。
今回の報告書が突きつけた問題は、「誰がデータを操作したのか」だけではありません。「会社のため」「安全性には問題がない」という理由で、ルールから外れても構わないと考える社員や集団を生み出す組織を、どう変えるのか。
社長と会長の辞任は、その出発点にすぎません。「企業風土」という見えにくい言葉を、監視、通報、人事、目標設定、経営会議といった具体的な仕組みにまで落とし込めるか。そこまでできるかどうかが、中部電力が失った信頼を取り戻せるかを左右することになりそうです。
文=KIJIKUL編集部
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