簗農水相「道路予算カット」発言!なぜ国交省は「圧力はなかったと思う」なのか

「道路予算を大幅にカットした」――。簗和生農林水産相が、選挙で自身の対立候補を支援した地元自治体について語った発言が波紋を広げています。実際、栃木県那須烏山市と那珂川町への道路関連予算は大幅に減額されました。国土交通省は簗氏から予算配分について問い合わせがあったことを認めながら、「働きかけや圧力はなかった」と説明しています。

「道路予算をカットした」は本当だったのか

問題の発端は、簗氏が2026年5月、自民党関係者の会合で行った発言です。2月の衆院選で栃木3区は保守分裂選挙となり、簗和生氏に加え、自民党籍を持ちながら無所属で出馬した渡辺真太朗氏が立候補しました。那須烏山市と那珂川町の首長は渡辺氏を支援しました。

報道された音声によれば、簗氏はその後の会合で、両市町の2026年度の道路予算について「大幅にカットした」などと発言しました。これが事実なら重大です。国の予算は国民の税金であり、自治体の首長が選挙で特定の政治家を支援したかどうかによって配分されるものではないからです。

簗氏は10月5日、発言を撤回して陳謝し、担当省庁に予算削減を働きかけた事実はないと否定しました。国土交通省も調査に乗り出し、10月6日に結果を公表しています。

ところが、その内容が新たな疑問を生みました。国交省によると、2026年度予算が成立する前の2月中旬ごろ、簗氏から当時の佐々木紀国交副大臣と黒田昌義官房長に対し、那須烏山市と那珂川町の道路予算配分について問い合わせがありました。この時点では配分額が決まっておらず、回答は保留。4月の予算成立後、簗氏に配分額を説明したとしています。

そして、実際の配分額は、市町が実施する対象事業について那須烏山市が前年度比26.2%減の1億500万円、那珂川町が54.1%減の2300万円となりました。

一方、国交省は、県が両市町内で実施する事業まで含めれば、それぞれの地域への配分総額は約2割増えていると説明しています。また、他にも大幅減となった自治体があり、選挙で簗氏を支持した地域でも減額例があるとして、政治的な影響を否定しています。

問題は、その結論を裏付ける記録です。簗氏との詳しいやりとりを残したメモなどはなく、問い合わせを受けた側も内容を「はっきりと覚えていない」としています。それでも国交省は「働きかけや圧力を受けたことはなかったと思う」と説明しました。つまり、「圧力がなかったことを記録で確認した」というより、関係者への聞き取りなどから「なかったと判断した」という構図です。

那須烏山市が「『働きかけはなかった』から『なかったと思われる』にトーンダウンした」「疑念はむしろ深まった」と反発したのは、このためです。

もちろん、予算が減ったという事実だけで簗氏の圧力があったとは断定できません。しかし、「自分がカットした」と本人が発言し、予算決定前に対象となった2市町について国交省幹部へ問い合わせ、実際に市町の対象事業への配分額が減った――。これだけの事実が重なれば、国交省には「働きかけや圧力はなかったと思う」以上の具体的な説明が求められるでしょう。

30年前にもあった「応援しない地域には予算を回すな」

今回の問題を簗氏個人の「失言」だけで片付けてよいのでしょうか。日本政治では長年、国会議員が中央省庁に地元の要望を伝え、公共事業や補助金を巡って、国会議員が地元の要望を中央省庁に伝える「陳情」や、いわゆる「口利き」が行われてきました。

政治家が地域の要望を国に届けること自体は違法でも、不適切でもありません。地方自治体だけでは国に届きにくい要望を国会議員が仲介することも、政治家の役割の一つです。問題は、それが選挙支援への「見返り」や、支援しなかったことへの「報復」と結びつく場合です。

実は、よく似た議論は約30年前にもありました。1996年の衆院選後、自民党内では、新進党候補が勝利した地域について予算を減らすべきだという趣旨の「報復発言」が相次いだと報じられました。

当時の加藤紘一幹事長も「予算は国民のためにある」と報復を否定する一方、予算編成の重点の置き方について、政治家との接触の度合いが強い地域の意見が反映される可能性に言及しています。

ここに、今回の問題の本質があります。政治家が地元への予算獲得に動くことと、政治的に敵対した自治体を不利に扱う「報復」は、明確に区別されなければなりません。「応援してくれた地域の要望を優先する」が認められるなら、その裏側には「応援しなかった地域は優先しない」という発想が生まれるからです。

しかし、道路は政治家の支持者だけが使うものではありません。選挙で誰を支持したかに関係なく、住民は税金を払い、道路や橋などの公共インフラを利用します。だからこそ、予算配分には客観的な基準と、その過程を後から検証できる記録が必要なのです。

森友問題と重なる「記録がないから検証できない」構造

今回の問題を見て、森友学園を巡る問題を思い出す人もいるでしょう。もちろん、両者を同一視することはできません。森友問題では、国有地売却を巡る決裁文書の改ざんや応接録の廃棄が実際に確認され、財務省自身が2018年の調査報告書で認定しています。今回の簗氏の問題では、現時点で文書改ざんや意図的な記録廃棄が判明したわけではありません。

それでも、行政への信頼という観点では共通する問題があります。それは、「政治家と官僚の間で何が話されたのかを、後から客観的に検証できない」という問題です。

森友問題では、国会で問題が追及されるなか、財務省の応接録が廃棄され、決裁文書が改ざんされました。財務省は後に、国会でさらなる質問につながり得る材料を極力少なくすることが応接録廃棄の主な目的だったと説明しています。

今回、国交省は簗氏から予算成立前に問い合わせがあったことを認めています。しかし、その具体的なやりとりを確認できる詳細なメモは残っていません。そのため、「圧力があった」という証拠も確認できない一方、「圧力がなかった」と第三者が検証できる材料も乏しいのです。

これは行政にとって大きな問題です。行政の説明責任は「不正の証拠が見つからなかった」で終わるものではありません。疑念を持たれたとき、どのような基準で、誰が、いつ、どのような判断をしたのかを説明できることが重要です。

国交省は、予算配分は地域の要望や事業の進捗状況などを総合的に勘案して決めたと説明しています。ならば、那須烏山市が26.2%減、那珂川町が54.1%減になった理由について、可能な範囲で具体的な算定根拠や他自治体との比較を示すことが、疑念を払拭する最も有効な方法でしょう。

「圧力はなかったと思われる」という説明だけでは、国交省が省内調査によって自ら「問題なし」と判断したように映ってしまいます。

なぜ高市首相は簗農水相を更迭しないのか

では、なぜ高市早苗首相は簗氏を更迭しないのでしょうか。

高市首相は10月5日、簗氏に対して「職責を全うするよう」指示しました。つまり現時点では、辞任させるのではなく続投させる判断です。簗氏自身も発言を撤回・謝罪したうえで、農水相を続ける意向を示しています。

政権側から見れば、現段階で簗氏が国交省に予算削減を指示した事実は確認されていません。国交省も予算配分への影響を否定しています。政権側から見れば、現段階で簗氏による予算削減への働きかけは確認されておらず、国交省も予算配分への影響を否定しています。高市首相は簗氏に「職責を全うするよう」指示し、続投させる判断をしています。一方、閣僚としての説明責任が問われる事態になっていることも事実です。

しかし、問題は「違法行為が証明されたか」だけではありません。簗氏は、選挙で自分を支援しなかった自治体を名指しし、「道路予算を大幅にカットした」という趣旨の発言をしました。そして、その自治体の予算について、決定前に国交省幹部へ問い合わせていたことも確認されています。

仮に実際には予算配分に一切影響を与えていなかったとしても、政治家が国の予算を選挙支援への「賞罰」のように語ったこと自体が、公金に対する政治家の姿勢を問われる問題です。しかも、この問題を曖昧なまま終わらせれば、自治体側には「政権与党の候補を応援しなければ予算で不利益を受けるのではないか」という疑念が残ります。

それは地方自治や選挙の公平性にも関わります。なぜ那須烏山市と那珂川町の対象予算が大幅に減ったのか。なぜ簗氏は配分決定前に、この2市町について問い合わせたのか。そして、なぜ実際には自分に予算を削減する権限がないにもかかわらず、「大幅にカットした」と支持者の前で語ったのか。少なくとも、この3点について明確な説明が必要です。

文=KIJIKUL編集部
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