サイゼリヤが過去最高益で株価急騰!「値上げしない」で儲かる仕組みとは

「ミラノ風ドリア300円」に象徴される低価格を守り続けるサイゼリヤが、物価高の逆風下でも好業績を更新しています。2026年8月期第3四半期は、売上高が前年同期比17.5%増、営業利益が25.6%増となり、株価は決算発表翌日にストップ高となりました。2025年8月期に原価率が約42%に達しても利益を生み出せた理由は、単なるコスト削減ではありません。客数を増やし、店舗や人員を効率よく動かす「仕組み経営」にあります。
最高益更新への期待で株価は連日の急騰
サイゼリヤの株価が急騰しています。
2026年7月15日に発表した2026年8月期第3四半期累計(2025年9月~2026年5月)の連結決算は、売上高が2213億3200万円で前年同期比17.5%増、営業利益が133億2700万円で25.6%増、経常利益が136億1000万円で24.9%増となりました。親会社株主に帰属する四半期純利益も87億300万円と11.8%増えています。
主力の国内事業が好調です。国内売上高は1498億100万円と前年同期比19.6%増、営業利益は55億9200万円と、同120.7%の大幅増となりました。会社側は、店舗運営体制の改善やメニュー施策、DX活用によって、既存店の客数と客単価が増加したと説明しています。
通期では売上高2970億円、営業利益182億円、経常利益183億円を見込んでいます。2025年8月期の営業利益154億9900万円を上回る計画であり、営業利益は過去最高を更新する可能性があります。期末配当予想も従来の30円から35円へ引き上げられました。
市場はこの決算を高く評価しました。7月16日の株価は前日比1000円高の6780円でストップ高。翌17日も一時、ストップ高水準の7780円まで上昇し、終値は7600円、前日比820円高となりました。15日の終値から17日の終値まで、2営業日で3割を超えて上昇しました。好調な国内事業に加え、増配や、通期業績計画に対する順調な進捗が買い材料になったとみられます。
もっとも、今回の通期予想は4月に修正された数字を据え置いたもので、7月に業績予想を再び上方修正したわけではありません。それでも、第3四半期までの経常利益の進捗率が74.4%に達し、過去5年平均を上回ったことから、市場では会社予想の達成に加え、業績が上振れするとの期待も強まりました。
原価率42%でも儲かる「客数最大化」の仕組み
サイゼリヤの好業績を考えるうえで重要なのが、値上げをしなくても利益を出せる独特の収益構造です。2025年8月期の売上高は2567億1400万円、営業利益は154億9900万円、純利益は111億6400万円となり、いずれも過去最高を更新しました。営業利益率は6.0%です。
特徴的なのは、売上高に占める売上原価の割合が約42%と高いことです。一般的な飲食店では、食材原価率を30%前後に抑えることが一つの目安とされます。しかし、サイゼリヤは低価格を維持しながら食材の品質にもこだわっているため、食材原価の比率が高くなっています。
しかも、原材料価格の上昇や円安の影響により、原価率は2019年8月期の約36%から2025年8月期には約42%へ上昇しました。普通なら、メニュー価格を引き上げて原価上昇分を顧客に転嫁しなければ、利益率は大きく低下します。
しかし、サイゼリヤが選んだのは、値上げによる価格転嫁とは反対の戦略でした。価格を据え置くことで他社との価格差を広げ、来店客数を増やし、売上高を拡大する方法です。値上げしないこと自体を集客力に変え、店舗の固定費や人件費を、より大きな売上高で吸収しています。
2019年8月期から2025年8月期にかけて、サイゼリヤの客数は約2億2800万人から約3億人へ増えました。店舗数の伸び以上に客数が増えたことで、1店舗当たりの売上高が拡大しています。客単価も686円から857円へ上昇しました。サイゼリヤは主要商品の価格を大きく引き上げていないため、客単価上昇の背景には、料理やデザート、ドリンクなどの注文点数が増えた可能性があります。
つまり、1品の価格を上げるのではなく、手頃な価格だからこそ複数の商品を注文してもらう構造です。値上げによる客離れを避けながら、注文点数を増やして売上高を伸ばしています。この売上拡大によって、販管費率は2019年8月期の約58%から2025年8月期には約52%まで低下しました。人件費の総額は増えたものの、売上高に占める人件費の割合は低下しました。店舗の賃借料など、売上高が増えても急激には膨らまない固定費の負担率も低下しました。
サイゼリヤは食材原価を削って利益を出しているのではありません。原価率の上昇を、客数と売上高の拡大による販管費率の低下で補っているのです。
自社工場とDXで店舗調理を効率化
低価格を支えるもう一つの柱が、調達から加工、物流、店舗運営までを一体化した垂直統合型の仕組みです。サイゼリヤは、食材の開発や原料調達、加工、保管、配送を自社グループで広く手掛けています。国内だけでなくオーストラリアにも工場を持ち、ホワイトソースやミートソース、ハンバーグなどを生産しています。
工場で食材を集中加工すれば、各店舗で一から調理する工程を減らせます。味や品質を均一化しやすくなり、高度な調理技術を持つ人材を各店舗に多数配置する必要もありません。食材の使用量を標準化できるため、廃棄や作業上の無駄も抑えられます。
2026年1月には中国・広州で新工場が竣工しました。会社は商品開発、調達、加工、保管、物流をグローバルな視点で管理できる組織へ変更しており、海外を含めたサプライチェーンの効率化を進めています。
店舗でも省力化が進んでいます。顧客のスマートフォンを使うQRコード注文は、2025年12月末までに全店への導入を完了しました。注文を取るために従業員が客席を往復する回数を減らせるだけでなく、注文ミスの防止や追加注文の促進にもつながります。
セルフレジや調理工程の標準化も含め、少ない人数でも多くの客に対応できる店舗運営体制を構築しています。ただし、DXは単純な人員削減策ではありません。注文を取る作業や会計作業を減らし、限られた従業員を料理の提供、客席の整備、店舗管理などに振り向けることが目的です。
サイゼリヤの強さは、「安く仕入れる」「人を減らす」といった個別のコスト削減ではなく、工場、物流、調理、注文、会計までを一つのシステムとして設計している点にあります。競合他社が一部の商品価格を引き下げるだけでは、簡単にまねできない仕組みです。
客数の伸びに限界も「朝サイゼ」と海外が次の一手
一方、値上げをせず、客数を増やし続ける戦略にも限界があります。国内店舗の席数や営業時間には上限があります。混雑するランチや夕食の時間帯で客数をさらに増やそうとしても、店舗の収容能力を超えて客数を増やすことはできません。混雑が激しくなれば、待ち時間の増加や接客品質の低下を招く可能性もあります。
原材料価格や人件費が上昇し続けるなかで、客数の伸びが鈍化すれば、原価率の上昇を販管費率の低下で吸収する現在の収益構造は、維持が難しくなります。実際、直近3カ月に当たる2026年3~5月期では、売上高営業利益率が、前年同期の6.6%から6.0%へ低下しました。売上高と利益は増えているものの、コスト上昇圧力が消えたわけではありません。
そこで次の成長策となるのが、既存店舗の空いている時間を活用する取り組みです。サイゼリヤは朝食限定メニュー、いわゆる「朝サイゼ」の実施店舗を順次拡大しています。朝や午後のアイドルタイムは、家賃や設備費が発生しているにもかかわらず、客席の稼働率が低い時間帯です。ここに新たな客を呼び込めれば、大規模な新規出店を行わなくても売上高を増やせます。
海外出店も重要です。中国では広州の新工場を稼働させ、武漢市に同社初の店舗を出店しました。ベトナムでも3号店を開業しています。2026年8月期第3四半期のアジア事業は売上高715億3000万円と13.4%増えましたが、営業利益は73億400万円と6.3%減少しており、出店拡大と収益性の両立が課題です。
今後の焦点は、「値上げしない」という方針をどこまで維持できるかだけではありません。朝食需要の開拓、空いている時間帯の活用、海外店舗の拡大、サプライチェーンの効率化によって、客数と店舗稼働率をどこまで高められるかにあります。
サイゼリヤの低価格は、利益を犠牲にした安売りではありません。低価格で客を集め、注文点数を増やし、工場と物流で品質を管理し、DXで店舗の生産性を高める。その結果、売上高に占める人件費や賃借料などの負担を引き下げています。
「値上げをしないでも儲かる」のではなく、正確には、値上げをしないことによって客数を増やし、その客数を利益に変える仕組みを長年かけてつくってきたのです。300円のミラノ風ドリアは、単なる格安商品ではありません。サイゼリヤの調達力、製造力、物流力、店舗運営力を凝縮した、同社の経営モデルそのものといえるでしょう。
文=中田英明(経済ジャーナリスト)
※本記事は情報提供を目的として作成したものであり、特定の企業、商品、サービス、金融商品、投資その他の取引を推奨または勧誘するものではありません。掲載内容は記事公開時点の公開情報等に基づいており、意見・見解・予測などは執筆者または編集部の判断によるもので、予告なく変更される場合があります。内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、最終的な判断はご自身の責任において行ってください。【ビジクル編集部】
120×520.jpg)

