クレームはなぜ宝の山なのか?顧客の不満を信頼と受注に変える社長の仕事術

クレームは、顧客が会社の問題点を知らせてくれる貴重な機会です。顧客から届いた声をどう受け止めるかで、その後の信頼は変わります。営業日報に埋もれた要望を拾い、クレームの第一報を正確につかみ、迅速に対応するには何が必要なのでしょうか。経営コンサルタントの一倉定氏の指導と企業の事例を通じて、顧客の不満を改善や受注につなげ、社員からの信頼も高める社長の姿勢を考えます。
営業日報で顧客の本音と受注の芽を読み取る
社長のお客様訪問と並行して自社の担当営業マンも日々の受注、売上獲得のために営業活動をしますが、話の内容は自ずと変わってきます。社員は社員の持っている知識と経験、情報で判断し、得てくる情報も多くは同じような階層の担当者同士の情報です。しかし、営業マンの情報も活かし方次第です。
社長が自社の将来の方向性を考え、決定するためには不充分であっても、社長1人で回れる得意先は数が知れており、なかなか小さな得意先まで訪問できるわけではありません。建築工事関連のH社長は、大手の主要得意先を中心に回っていますが、外出が多いため、帰社後に確認した日報の気になる点を、机上の1冊のノートに書き留めています
当時は、今のようにメールで日報をやり取りする時代ではなかったためタイムラグは仕方ないですが、社員からの日報を読んで「疑問に思ったこと」「ピン!ときた報告」をメモし、後日訪問するための備忘録です。この日報は当然一倉式ですが、「お客様に言われたこと」と「自分の意見」を混同しないように区分されているシンプルな様式です。
当時、多くの日報は営業マン管理のためではないと言いながら訪問時間や訪問件数などの記入項目が多く、営業活動の効率化や社員管理の色合いが強いのが一般的でした。一倉式は日報までがお客様中心で、お客様の要望、不平、お問い合わせ等、お客様に何を言われたかをフリーで記入するように作られており、社長は日報を読み、気になる点があれば自らお客様を訪問するための「ネタ帳」として使っていたのです。
実際に伺って直接聞いてみると、日報には特殊な工事資材についての問い合わせと書かれていても、実際には、難工事が予想される現場について相談したかったようで、現場に詳しい社長が行ったことで新しい工法で工事を請け負うことが決まります。こういうことがしばしば起きるのです。
たとえ受注に結び付かないことがあっても、お客様からは「H興業さんは社内のホウレンソウがしっかりしている」「こちらの困りごとの相談に親身に対応してくれる」など評判がいいのです。
大手と違い、中小企業の若い営業担当は経験も乏しく、詳しい専門知識も持ち合わせていないことが少なくありません。ベテラン幹部や社長だとピンとくる受注のシグナルもみすみす逃してしまいます。特に、若手が行きたがらない「技術的に詳しく口うるさいお客様」「ちょっと偏屈な研究者タイプのお客様」などは業界の最先端を行っていることもあり、社員の報告書だけを鵜呑みにせず、社長自ら足を運んで話を聞く価値があります。
クレーム初動を左右する正確な報告の仕組み
しかし、いい話ばかりではありません。クレームに関しては、一倉先生の指導は徹底していました。当事者である社員から社長に届くクレームの第一報は、実際の状況と大きく異なることが多いからです。
人は誰でも本能的に自分を守ろうとするので、当事者の報告には、無意識の自己擁護や認識の偏りが入り込むことがあります。社長や上司を決して騙すつもりはなくても、自己擁護のニュアンスが入ってしまいます。上司はやはり部下の社員を守りたいのが心情ですから、どうしてもひいき目に見てしまいます。
特に、クレームや事故の場合、初動を誤ると問題の本質がずれて、2次クレーム、炎上になってしまう危険があります。ましてや報告を怠ったり、虚偽の報告をしたりする悪質なケースもあれば、怒られるのが怖くて言い出せない場合も日常茶飯事です
一倉氏の指導を受けた企業の経営計画書には、「クレームを起こしたことについては不問」とする一方、「報告を怠った場合は厳罰に処す」と明記されていました。さらに当社に責任がある場合は、採算を度外視して最優先で対応するよう指示されています。この方針は妥当ですが、実際には運用が難しいです。
ある自動車ディーラーでは、営業担当とは別の社員がクレーム発生時には、即、動けるように体制が作られています。営業経験のある方ならわかると思いますが、ちょっとしたミスでも自分がしてしまうと精神的に負い目を持ってしまい、お客様の過度な要求にも全て応じてしまいがちです。
だから、冷静に現状判断ができる当事者以外の営業がクレーム対応を引き継ぎ、誠実に対応するとともに、費用負担についても双方が納得できる範囲で交渉を重ねていくのです。そうすると、そこからお客様の真のニーズや要求、不平不満や自社との行き違い、また売り手である自社のシステムの不備なども冷静に見えてきます。
ITの進歩や新しいサービスの登場によって、スタートアップ企業と既存企業との競争も激しくなっています。お客様が個人であっても、法人であっても、より便利で安く早く確実に要求を満たしてくれるところと取引をしようとします。
ただし、ただ安いだけで取引を次々と変えていく人は多くはいません。法人なら特にそうですが、「安定供給」「信頼安心」が優先するので、既存取引先に新しい取引形態の要請や条件交渉の打診が入ってきます。ボタンの掛け違いで、クレームになり、不満となる場合もありますが、経営が環境対応業である限り変化をしない企業が淘汰されてしまうのです。
社長の誠実な対応が顧客と社員の信頼を築く
お客様だって、いろいろ苦情を言ったり、リクエストしたりするのは重荷ですから、黙って去ってゆく場合が多いわけで、クレームだったり各種の一見面倒に見える要求が会社に届く状態は、むしろ大歓迎すべき状態です。
それを社長がよくわかって「瞬間湯沸かし器のごとく怒らないこと」「報告の労をねぎらって犯人探しをしないこと」を守ってほしいのです。
もう数年前になりますが、新宿の関係先の会社で営業部長と打ち合わせをしていたときのこと、社内がザワザワしていたため、長年の付き合いでもあるので失礼ながら、「どうしたの?随分バタバタしているけど?」と聞くと、部長曰く、「ちょっと大きなクレームが起きて、みんな気持ちがそっちに行っていて」と言います。
続けて、「重要な社内通達でも、みんなにはあまり伝わらないのだけど、クレームだと担当者はどうなるのだろう?収まったかな?と耳がダンボになり、戦々恐々としていて!」と。
新規の得意先を獲得したといった良い話には、自分のことではないためあまり関心を示しませんが、こういう状況だと日頃、社長がどんなに理想的なことを言っていても、本当の本当はどういう言動をとるのか、一挙手一投足を全社員が見ているのです。
幸いここのF社長は、経営計画書に定めたクレーム対応方針に沿って陣頭指揮を執ったため、この対応は、社員からの信頼をさらに高めることにつながりました。
クレームというのは会社の実力が試される貴重な機会でもあります。グッドマンの第一法則(注)が示すようにクレームが発生しても、きちんと対応することで逆に、お客様からの信用を一層高めることもでき、自社の改善、改革もお客様目線で進んでいくのです。
(注)グッドマンの第一法則。不満を持つ顧客のうち、苦情を申し立て、その解決に満足した顧客は、不満を持ちながら苦情を申し立てなかった顧客よりも、再購入意向が高いという関係を示したものです。
※本稿は作間信司著『伝説の経営コンサルタント 一倉定の社長学』(プレジデント社/2019年11月29日刊)から一部を抜粋し、再編集したものです。
文=作間信司(日本経営合理化協会専務理事/執筆時)
作間信司(さくま・しんじ)
1981年、明治大学経営学部卒業後、大手インテリア会社にて販売戦略などの実務経験を積んだ後、1983年、日本経営合理化協会入協。事業の企画・立案を担当する傍ら、会長牟田學の薫陶を受け、全国の中堅・中小企業の経営相談に携わる。以来、40年以上の豊富な指導経験からオーナー経営者との親交も非常に広く、その親身のコンサルティングに多くの社長が全幅の信頼を寄せる。メーカー・商社・小売・サービス業など、現在まで300余社を指導する気鋭のコンサルタント。
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