小林製薬に5000億円買収案!「紅麹問題」で非公開化は正しい選択なのか?

「紅麹問題」に揺れた小林製薬が、株式の非公開化を検討しています。日本産業推進機構(NSSK)と英CVCキャピタル・パートナーズの関連法人が共同で提案し、買収総額は5000億円規模になる可能性があります。報道を受け、9月25日の株価はストップ高の6885円まで急騰しました。紅麹問題から約2年半。上場を続けながら再建するのか、それとも市場を離れて改革を加速するのでしょうか。
「非公開化」提案で株価はストップ高
「熱さまシート」「ブルーレット」「消臭元」など、数々のヒット商品を生み出してきた小林製薬に、大きな転機が訪れています。2026年9月25日、小林製薬は、日本産業推進機構(NSSK)と英CVCキャピタル・パートナーズの関連法人から、株式の非公開化に関する共同提案を受けていることを明らかにしました。
ただし、注意したいのは、まだ「非公開化を決めた」わけではないことです。会社側は「企業価値向上のための選択肢の一つ」として、法的拘束力のない初期的な共同提案を受領したことは事実と認める一方、「現時点で当社として決定した事実はございません」としています。
報道によれば、ファンド連合はTOB(株式公開買い付け)によって株式を取得し、小林製薬を非公開化する案を提示したとみられます。9月24日終値ベースの時価総額は4593億円。買収総額は5000億円規模になる可能性があります。
株式市場は敏感に反応しました。9月25日の小林製薬株は買い注文が殺到し、前日比1000円高(16.99%)の6885円でストップ高となりました。取引時間中は売買が成立せず、大引けでストップ高配分となるほど買いが集まりました。
前日の終値は5885円ですから、わずか1日で約17%上昇したことになります。市場が反応したのは、非公開化が実現すればTOB価格に一定のプレミアムが付くとの期待があるためでしょう。ただし、現時点ではTOBの実施も買付価格も決まっていません。
背景にあるのが、2024年に発覚した紅麹関連製品による健康被害問題です。小林製薬は紅麹問題後、経営陣の交代、品質管理体制の強化、ガバナンス改革などを進めています。一方、14%超を保有する香港系投資ファンドのオアシス・マネジメントからは、創業家の影響力が残っていることなどへの批判も出ています。
つまり今回の提案は、単純な買収案件ではありません。「誰が小林製薬の再建を主導するのか」という経営権を巡る問題でもあるのです。

「紅麹問題」で利益はどこまで減ったのか
小林製薬を大きく変えたのが、2024年3月に公表した紅麹関連製品の問題です。実は最初に医師から症例報告があったのは2024年1月中旬でした。
しかし、会社が使用中止の呼びかけと自主回収を発表したのは3月22日です。事実検証委員会の調査を受け、小林製薬の取締役会自身も、健康食品の安全性に対する意識不足、行政報告や製品回収の判断基準の曖昧さ、危機管理における経営のリーダーシップ不足などが重なり、注意喚起や製品回収の判断が遅れたと総括しました。
問題は企業イメージだけではなく、業績にも影響しています。2025年12月期の売上高は1657億円と前年並みでしたが、営業利益は149億円で40.0%減、純利益は36億円で63.7%減となりました。
さらに、仙台新工場とタイ工場で合計146億円の減損損失を計上しています。仙台新工場では、品質管理体制の強化などに当初想定以上の時間と費用が必要になり、134億円の減損損失を計上しました。
紅麹問題の影響は2026年に入っても消えていません。2026年12月期中間期は売上高707億円と前年同期比2.5%増となったものの、営業利益は21億円と67.5%減、純利益は11億円と64.1%減でした。
売上は戻りつつあるのに、利益は戻っていない――。これが現在の小林製薬の置かれた状況です。
品質管理とガバナンス改革はどこまで進んだ?
では、小林製薬の経営再建は進んでいるのでしょうか。
同社は2024年9月、「品質・安全に関する意識改革と体制強化」「コーポレート・ガバナンスの抜本的改革」「全員が一丸となって創り直す新小林製薬」の3本柱からなる再発防止策を策定しました。
具体的な改革も始まっています。2025年1月には品質管理に関連する組織を再編。製品の開発・製造に関する法規を専門的に扱う部署を新設したほか、工場への社内定期監査や第三者機関による監査も導入しました。2025年2月には「リスク・コンプライアンス専門委員会」を新設しています。
さらに2025年3月にはコーポレートガバナンス委員会を設置。2026年には専門性を重視した人材配置や人事評価制度の改定など、組織風土そのものを変える取り組みも進めています。
経営トップも変わりました。現在の代表取締役社長は豊田賀一氏です。小林製薬は、紅麹関連製品で健康被害にあった人への補償を進めながら、再発防止策に取り組んでいます。
つまり、「何も変わっていない」わけではありません。一方で、改革が完了したとも言い切れません。被害者への補償や再発防止策は継続中です。経営再建は「終わった」のではなく、まだ途中なのです。
上場廃止は改革か、それとも市場からの退場か
では、株式を非公開化することは小林製薬にとって合理的なのでしょうか。
メリットの一つは、短期的な業績や株価への対応に左右されにくい環境で、中長期的な改革を進めやすくなることです。品質管理の強化には人員も設備投資も必要です。ブランドへの信頼を取り戻すのにも時間がかかります。ファンドの資金や経営ノウハウを使い、数年間かけて組織を作り直すという選択肢には一定の合理性があります。
特に小林製薬は、2026年中間期に増収ながら営業利益が67.5%減っています。利益を短期間で戻すことと、品質・安全への投資を優先することが衝突する可能性もあります。非公開化によって中長期の改革を進めやすくなることはメリットでしょう。
しかし、逆の見方もできます。
紅麹問題で問われたのは、品質管理だけではなく、経営トップへの情報伝達、取締役会の監督、危機発生時の意思決定など、企業統治そのものでした。小林製薬自身も、取締役会や行政などへの適時・適切な報告・相談が行われなかったことを問題として認めています。
その企業が非公開化すれば、株式市場からの監視や情報開示のあり方も変わります。だからこそ重要なのは、「上場か非上場か」という形式だけではありません。
5000億円規模とされる買収価格は一般株主にとって妥当なのか。非公開化後に誰が経営を監督するのか。創業家はどの程度関与するのか。被害者への補償や再発防止策は最後まで実行されるのか。そして、ファンドが将来投資回収を目指す際に、品質・安全への長期投資とどのように両立させるのか。こうした条件によって、非公開化の意味は大きく変わります。
9月25日に株価がストップ高の6885円まで買われたのは、市場が今回の提案を企業価値に関わる大きな材料として受け止めたことを示しています。ただし、これは非公開化そのものへの最終評価ではありません。今後、正式なTOBに進むのか、そして買付価格がいくらになるのかによって、株主にとっての意味も変わってきます。
市場から離れることで、本当に紅麹問題で露呈した経営の弱点を直せるのか。非公開化を選ぶのであれば、その答えを株主だけでなく、被害者、消費者、従業員などのステークホルダーにも示す必要があります。
小林製薬の再建にとって、非公開化の買収提案はゴールではありません。むしろ「新しい小林製薬」を誰が、どのような仕組みでつくるのかを決める出発点になりそうです。
文=KIJIKUL編集部
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