ゆで太郎「大卒初任給35.5万円」の衝撃!それでも飲食業界の人手不足が続く理由

江戸切りそば「ゆで太郎」のフランチャイズチェーン本部を運営し、直営店を展開するゆで太郎システムは、2027年度の大卒初任給を35万5000円に引き上げます。高卒初任給も最大31万7000円となり、未上場企業ながら飲食業界では異例の高水準です。しかし、初任給を上げれば人手不足を解消できるとは限りません。飲食業界で賃上げ競争が加速する背景と、高待遇だけでは人材を定着させられない理由を考えます。

未上場のゆで太郎が大卒初任給35.5万円へ

外食業界の採用競争を象徴する賃上げが発表されました。江戸切りそば「ゆで太郎」のフランチャイズチェーン本部を運営し、直営店を展開するゆで太郎システムは、2027年度に最低1万7000円のベースアップを実施します。定期昇給3000円と合わせ、月額2万円の昇給を最低保証する方針です。月額2万円の昇給は、単純計算で年間24万円の年収増に相当します。

これに伴い、大卒総合職の初任給は月額35万5000円となります。ただし、採用情報によると、この金額は基本給27万5000円に、副店長手当2万5000円とDC手当5万5000円を加えたものです。高卒の地域限定職は、首都圏勤務で最大31万7000円、郊外勤務で最大30万5000円となります。

ただし、金額だけでなく勤務条件も確認する必要があります。大卒総合職の35万5000円は全国転勤があり、年間休日は105日です。高卒で31万7000円となるのも、首都圏勤務で年間休日105日のコースです。年間休日125日を選択すると、高卒初任給は首都圏で29万8366円、郊外では28万7290円になります。休日数に応じて給与が変わるため、「高卒なら誰でも31万7000円」と受け止めるのは正確ではありません。

それでも、飲食業界の初任給として非常に高い水準です。しかも、ゆで太郎システムは未上場企業です。株式を上場していない企業が、大手上場企業にも引けを取らない初任給を提示したことに大きな意味があります。

同社のベースアップは、2023年から2027年まで5年連続となる予定です。昇給率は2023年が平均6.1%、2024年が9.0%、2025年と2026年が8.4%で、2027年も最低6.0%を計画しています。同社が掲げるのは、利益が出た後に社員へ還元するのではなく、「社員にいくら払うべきか」を先に決め、必要な売上高や利益、生産性を逆算する経営です。賃金を利益の結果ではなく、経営計画の出発点に置いている点が注目されます。

飲食業界で初任給30万円台が相次ぐ背景

外食大手では、大卒初任給30万円台が珍しくなくなりつつあります。「餃子の王将」を運営する王将フードサービスは大卒初任給を30万円に引き上げ、すき家やはま寿司などを展開するゼンショーホールディングスも高い初任給を設定しています。「焼肉きんぐ」などを運営する物語コーポレーションも、2027年度の大卒初任給を30万円に引き上げる方針です。

背景にあるのは、外食企業の好業績だけではありません。若手人口の減少によって、採用対象となる若年層そのものが減っているからです。

1990年代には200万人を超えていた18歳人口は、現在ではほぼ半減しました。一方、外食企業は新規出店や営業時間の維持に必要な人員を確保しなければなりません。限られた若手を多くの業界が奪い合うため、従来の初任給では応募先の比較対象にすら入れないケースが増えています。

飲食業界には、立ち仕事が多く、昼夜のピーク時に業務が集中し、土日祝日に休みにくいという特徴があります。同じ給与水準であれば、土日祝日に休みやすく、身体的負担の少ない仕事が選ばれやすいため、他業種より高い初任給で不利な条件を補う必要が出てきたのです。

高い初任給には、採用サイトや求人媒体で目立つ効果もあります。「大卒35.5万円」「高卒最大31.7万円」という数字は、大企業に埋もれがちな中堅・未上場企業の知名度を一気に高めます。

ゆで太郎システムは、月額1万5000円を最大8年間、総額最大144万円まで支援する奨学金返済補助制度も設けています。初任給だけでなく、若手社員の将来不安にも対応している点は評価できます。

初任給を上げても人手不足を解消できない理由

初任給35万5000円という強力な条件を示しても、人手不足を完全に解消できるとは限りません。

第一の理由は、競合企業も賃金を引き上げるからです。一社が初任給30万円を打ち出せば、それが新しい相場となり、他社も追随します。当初は差別化できても、数年後には「業界標準」になる可能性があります。

賃上げ競争が進めば人件費負担も膨らみます。原材料費や光熱費、物流費も上昇するなか、商品価格への転嫁や店舗運営の効率化を進めなければ、賃上げが利益を圧迫します。

第二の理由は、入社後の労働環境が変わらなければ定着しないからです。高い初任給は応募者を集める「入口」にはなりますが、働き続けてもらえる保証にはなりません。

人手が足りない店舗では、一人当たりの負担が増え、残業や休日出勤が発生しやすくなります。クレーム対応、欠勤者の穴埋め、アルバイトの教育、売上管理などが店長や正社員に集中することもあります。入社前に想像した働き方との落差が大きければ、高い給与でも早期離職につながります。

第三の理由は、初任給と既存社員の給与とのバランスです。新卒社員の給与だけを大幅に引き上げれば、先輩社員との差が縮まり、場合によっては逆転します。新人の指導や難しい業務を担う社員が「評価されていない」と感じれば、組織全体の士気が低下します。その点、ゆで太郎システムが既存社員を含めてベースアップすることは重要です。

第四の理由は、若者が給与だけで就職先を選んでいるわけではないからです。休日数、勤務地、転勤の有無、勤務時間、教育体制、人間関係、将来のキャリアも重要な判断材料です。

同社は、年間休日を105日と125日から年に1回選べる制度を設けています。また、店舗業務を習得すれば、パート・アルバイトでも月額2万円の手当が付くチーフ職に昇格できます。その先には複数店舗を統括するマネジャーへのキャリアパスもあります。

こうした仕組みは、初任給の高さ以上に、人材の長期的な定着を左右します。生活や成長に合わせて勤務条件を選び、将来の姿を描けることが長期的な採用力につながるからです。

「払う給与」から経営を逆算できるか

今回の初任給引き上げが中小企業経営者に突き付けているのは、「35万5000円をまねるべきか」という問題ではありません。重要なのは、人材確保に必要な待遇を定め、それを実現できる事業構造へ変えられるかです。

すべての飲食店が大幅な賃上げを実施できるわけではありません。資金力や店舗数、商品構成が異なる中小飲食店が、表面的な金額だけを追えば経営を危うくします。

まず、採用したい人材像を明確にする必要があります。将来は複数店舗を管理する人材が必要なのか、地域に定着する社員が必要なのか、短時間勤務の主婦、学生、シニアを活用するのかによって、提示すべき条件は変わります。

そのうえで、セルフオーダー、券売機、キャッシュレス決済、調理工程の標準化などにより、一人当たりの生産性を高める必要があります。少ない人数で店舗を運営できれば、削減したコストを給与や休日の増加に振り向けられます。

価格転嫁も避けて通れません。安さを維持するために人件費を抑えれば、人を採用できず、営業時間の短縮やサービス低下を招きます。適正な価格を設定し、その一部を従業員へ還元する循環が必要です。

ゆで太郎システムの挑戦は、未上場企業でも事業の生産性と成長計画を組み直せば、高水準の待遇を目指せることを示しました。ただし、成否を決めるのは採用時の応募者数ではありません。入社した社員が数年後も働き続け、成長し、収益向上に貢献できるかどうかです。

初任給35万5000円は確かに衝撃的です。しかし、本当の勝負は発表後に始まります。賃上げを一時的な採用広告で終わらせず、生産性、価格戦略、休日、教育、キャリア形成を一体で改革できる企業だけが、人手不足の時代を生き残れるのです。

文=KIJIKUL編集部
※本記事は情報提供を目的として作成したものであり、特定の企業、商品、サービス、金融商品、投資その他の取引を推奨または勧誘するものではありません。掲載内容は記事公開時点の公開情報等に基づいており、意見・見解・予測などは執筆者または編集部の判断によるもので、予告なく変更される場合があります。内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、最終的な判断はご自身の責任において行ってください。【KIJIKUL編集部】

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