「役員報酬1億円以上」が過去最多1345人!従業員との給与格差は妥当か

役員報酬が1億円以上の上場企業役員が、2025年度に過去最多の1345人となりました。企業業績や株価の上昇、業績連動型報酬の拡大が背景にあります。一方、物価高に直面する従業員には、役員ほど報酬が増えた実感がありません。高額な役員報酬は経営成果への正当な対価なのでしょうか。役員と従業員の格差から考えます。
「役員報酬1億円以上」が過去最多の1345人
東京商工リサーチによると、2025年度に役員報酬1億円以上を個別開示した上場企業は606社で、前年度から66社増えました。人数も1207人から1345人へ増加し、社数、人数ともに過去最多です。
高額化の背景には、基本報酬の引き上げだけでなく、業績や株価に連動する賞与、株式報酬などの普及があります。経営者に企業価値向上への動機を持たせる仕組みです。グローバル企業には、海外から優秀な経営人材を獲得するため、欧米企業と報酬面でも競争する事情があります。ドルなどで設定された外国人役員の報酬が、円安で膨らむ場合もあります。実際、報酬額上位10人のうち5人が外国人役員でした。

報酬額のトップは、セブン&アイ・ホールディングスのジョセフ・マイケル・デピント元取締役の134億1700万円です。2010年に個別開示制度が始まって以降の最高額となりました。ただし、その大半は通常の年間報酬ではありません。米国子会社7-Eleven, Inc.のCEOを退任した際の退職手当約103億6800万円が含まれています。「日本企業の役員が毎年134億円を受け取っている」と見るのは正確ではありません。
2位はソフトバンクグループのレネ・ハース取締役の61億3900万円、3位はキオクシアホールディングスのステイシー・スミス会長の44億3100万円です。日本人ではソニーグループの十時裕樹社長の27億5700万円が最高でした。
10億円以上の役員も、前年度の20人から24人に増えました。役員報酬の高額化は、限られた経営者だけの現象ではなくなりつつあります。

最多34人の日立は本業でも稼いでいるのか
企業別で1億円以上の役員が最も多かったのは日立製作所で、前年度の31人から34人へ増加しました。3年連続で30人を超えています。2位は三菱UFJフィナンシャル・グループの18人、3位は三井住友フィナンシャルグループの15人です。
では、日立は34人に1億円以上を支払えるほど、本業で利益を上げているのでしょうか。2026年3月期の日立製作所は、売上収益が前期比8%増の10兆5867億円、調整後営業利益は2276億円増の1兆1992億円となりました。親会社株主に帰属する当期利益も8023億円に達しています。
かつての日立は、家電や半導体、情報通信、電力設備まで抱える総合電機メーカーでした。しかし、不採算事業の整理や上場子会社の再編を進め、現在はデジタル技術を活用した「Lumada」、送配電網、鉄道、産業システムなどに経営資源を集中しています。
資産売却で一時的な利益をつくっただけではなく、事業構造を転換し、本業の収益力を高めた点は評価できます。1億円以上の役員が多い背景には、グローバル企業と競争できる経営人材を確保するため、株式報酬や業績連動報酬を広く設定している事情もあります。
従業員への還元も進めています。2026年の賃金交渉では、月額1万8000円の賃金水準改善を実施すると回答しました。定期昇給を含む平均昇給額は2万3690円、平均昇給率は6.5%です。賃金と賞与を合わせた平均年収も6.0%増える見込みです。
したがって、日立について「役員だけが報酬を増やしている」とは断定できません。ただし、好業績が経営判断による成果なのか、円安や市場環境による追い風なのかは見極める必要があります。

最大100.9倍!役員報酬と従業員給与の格差
役員と従業員の給与格差が最も大きかったのはトヨタ自動車です。豊田章男会長の基本報酬と賞与は10億1600万円で、従業員の平均年間給与1006万円の100.9倍でした。
株式報酬を加えた報酬総額は21億1300万円となり、従業員平均の210倍に広がります。もっとも、トヨタの経営判断は数十兆円の売上高や数十万人の雇用に影響します。長期的な企業価値やブランドを支えた責任と実績を評価すべきだという考え方もあるでしょう。
1億円以上の役員全体では、従業員平均給与との差は中央値で9.7倍、平均で12.7倍でした。前年度はそれぞれ10.6倍、13.4倍だったため、格差はわずかに縮小しています。
対象企業の従業員平均給与も、中央値が前年度の895万5000円から910万1000円へ、平均値が957万7000円から977万円へ上昇しました。「従業員給与はまったく上がっていない」という見方は正確ではありません。
それでも、従業員が賃上げを実感しにくいのは事実です。給与が数%増えても、食品、家賃、光熱費、社会保険料などの負担が増えれば、実質的な手取りは伸びません。一方、役員は業績連動報酬や株式報酬により、報酬が数億円単位で増える場合があります。
また、中央値910万円は、1億円以上の役員がいる上場企業を対象に算出したものであり、日本企業全体の給与水準ではありません。高収益の大企業と、その取引先である中小企業との賃金格差も見逃せません。
大企業が仕入れ価格や外注費を抑えながら、自社役員の報酬だけを増やしているなら、問題は社内格差にとどまりません。サプライチェーン全体で利益をどう分配するかも問われます。
なお、有価証券報告書に記載される平均年間給与は、原則として提出会社単体の従業員が対象であり、グループ全従業員の給与水準を示すものではありません。
問われるのは成果と分配を説明できるか
役員報酬が1億円を超えること自体を問題視する必要はありません。経営判断によって企業価値が数千億円、数兆円増加したのであれば、数億円の報酬には経済的な合理性があります。
ただし、高額報酬に見合う働きをしているかは、利益や株価だけでは判断できません。将来への成長投資、人材育成、顧客満足、取引先との関係、企業統治まで含めて評価すべきです。
短期的な利益を増やすために人員、研究開発費、設備投資を削減すれば、一時的に株価が上がる可能性があります。しかし、数年後に競争力が低下するなら、優れた経営とはいえません。
従業員への分配も重要です。経営陣が過去最高の報酬を受け取る一方、従業員の賃上げが物価上昇に追い付かなければ、社内の納得は得にくいでしょう。人材流出や意欲低下を招けば、企業価値も損なわれます。
企業に求められるのは、「欧米企業より低い」「他社も増やしている」という説明ではありません。どの経営目標を達成した結果、いくら支払ったのか、その成果を従業員、株主、取引先へどう配分したのかを示すことです。
役員報酬1億円以上が1345人に達したことは、日本企業が「成果を上げた経営者に報いる時代」に入った証しともいえます。一方、経営陣だけが豊かになる制度では、従業員や社会の信頼は得られません。
問われているのは、高額報酬そのものではなく、その金額を説明できるかです。企業価値の向上と従業員への還元を両立して初めて、1億円を超える報酬は正当な経営の対価として認められるのです。
文=KIJIKUL編集部
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