株価87%の下落から反転?エムスリーの「復活」は本物か、まだ様子見か

コロナ禍を代表する成長株だったエムスリーの株価が、長い低迷から反転の兆しを見せています。2021年1月の最高終値1万565円から2026年5月には1297円まで下落。下落率は実に87%を超えました。その後は1700円台まで回復していますが、8月の第1四半期決算後には、翌日の終値が17%近く急落しました。かつての「成長株の王者」は復活するのでしょうか。

1万565円→1297円!エムスリー株「87%暴落」の衝撃

エムスリーほど、この5年間で市場評価が大きく変わった企業も珍しいでしょう。株価は2021年1月25日に終値ベースで1万565円を付けました。ところが、その後は長期的な下落局面に入り、2026年5月12日には1297円まで下落。ピークからの下落率は約87.7%に達しました。

ただ、足元では変化も見られます。2026年8月27日の終値は1778.5円。5月の安値から約37%上昇しており、長期低迷から反転し始めたようにも見えます。業績にも回復の兆しが見られました。2026年3月期の売上収益は前期比23.3%増の3514億円、営業利益は16.8%増の735億円、当期利益は21.9%増の540億円でした。前年の2025年3月期は売上収益が19.3%増えながら営業利益は2.2%減っていたため、増収増益への復帰は大きな変化です。

主力のメディカルプラットフォームも、2026年3月期は売上収益1078億円で17.8%増、利益は359億円で5.3%増となりました。製薬マーケティング支援や医療現場のDX支援に加え、イーウェルの連結子会社化も増収に寄与しています。

ところが、2026年8月6日に発表した2027年3月期第1四半期決算で再び不安が浮上しました。売上収益は前年同期比4.5%増の901億円でしたが、営業利益は8.6%減の180億円、当期利益は21.8%減の106億円。増収減益です。翌8月7日の株価は1841円から1530円へ16.9%急落しました。

現在のエムスリーは、「業績回復→株価上昇」という単純な復活局面ではありません。市場は今も、成長力が本当に戻ったのかを厳しく見ています。

なぜコロナ禍で株価は3倍になったのか

そもそも、なぜエムスリー株は1万円を超えるまで買われたのでしょうか。エムスリーの強みは、医療従事者専門サイト「m3.com」を核とした独自のプラットフォームです。現在、国内では35万人以上の医師が利用しています。製薬企業は「MR君」などを通じ、医師に医薬品情報を効率よく届けることができます。

従来、製薬会社のMRは医療機関を訪問し、医師との面談を通じて医薬品情報を提供していました。しかしコロナ禍で対面営業が難しくなり、医師への情報提供も急速にデジタルへ移行しました。ここでエムスリーのビジネスモデルが時代に合致します。

多数の医師が集まるプラットフォームをすでに持っていたため、利用者が増えても追加コストを大幅に増やさずサービスを拡大できます。売上増加が利益増加につながりやすい、高収益のビジネスモデルです。さらにエムスリーは国内だけの企業ではありません。日本、米国、欧州、中国、韓国などで医療従事者向けサイトや医師パネルを展開し、医師登録数は世界で700万人以上に達しています。

コロナによって医療DXが一気に進む。その中心にエムスリーがいる――。市場はそんな未来を先取りしました。

その結果、株価はコロナ前から数倍に上昇し、PERも極めて高い水準まで買われました。ただし、高い成長期待は裏返せば、成長が少し鈍化しただけでも失望売りにつながります。コロナ禍で株価を押し上げた「期待の大きさ」が、その後は逆に株価下落を加速させる要因となったのです。

売上は伸びても利益が伸びない長期低迷の原因

株価低迷を単純に「コロナ特需の反動」だけで説明することはできません。より重要なのは、売上が拡大しても、以前のように利益が伸びなくなったことです。

2025年3月期は売上収益が2849億円と19.3%増えたにもかかわらず、営業利益は630億円で2.2%減少しました。特に、主力のメディカルプラットフォームは、売上収益が2.0%減、利益が11.7%減。会社は、製薬企業による継続的な予算圧縮とコロナ関連プロジェクトの減少により、利益率の高い製薬マーケティング支援の売上が減少したと説明しています。エビデンスソリューションも利益が35.1%減りました。

これはエムスリーにとって大きな変化です。かつては「m3.com」という圧倒的な医師基盤を使い、製薬会社の営業活動を効率化すること自体が大きな成長市場でした。しかし製薬企業側でもDXが進み、営業やマーケティングの方法は変化しています。

そのためエムスリーも、医療機関DX、治験支援、人材、病院経営支援、患者向けサービス、海外事業などへ領域を広げてきました。2024年には入院患者向けサービスを手掛けるエランとの資本業務提携を進め、2025年には企業の福利厚生サービスを展開するイーウェルの子会社化を発表。事業領域は確実に広がっています。問題は、新しい事業が、かつての製薬マーケティング支援ほど高い収益性で成長できるかです。

2027年3月期第1四半期では、この課題が再び表れました。メディカルプラットフォームは売上収益1.2%増に対して利益1.2%減。エビデンスソリューションは利益33.1%減、サイトソリューションは利益97.9%減、海外も4.9%減でした。一方、ペイシェントソリューションは売上9.9%増、利益66.2%増と成長しています。

今のエムスリーに求められているのは、売上規模の拡大ではなく、利益を伴った成長を取り戻すことなのです。

エムスリーの「利益成長」が復活の分かれ目

では、87%下落したエムスリー株は買いなのでしょうか。単純に「1万円から1000円台まで下がったから安い」と考えるのは危険です。2021年の株価には、コロナによる急成長と、その後も高成長が続くという期待が織り込まれていました。過去の最高値そのものを基準に、現在の割安・割高を判断することはできません。

一方で、復活を期待できる材料もあります。2026年3月期には営業利益が16.8%増となり、再び利益成長へ戻りました。2027年3月期も会社は売上収益4000億円、営業利益800億円を予想し、それぞれ13.8%増、8.8%増を見込んでいます。第1四半期が減益でも、通期予想は据え置いています。

今後の焦点は、主力の製薬マーケティング支援が再成長できるか、新規事業が利益の柱になれるか、そして売上と利益を同時に伸ばせるかです。

2026年3月期だけを見れば、業績回復は始まっています。しかし、2027年3月期第1四半期の減益を見る限り、安定した成長軌道に戻ったとはまだ断言できません。2026年5月の1297円から8月27日の1778.5円まで株価は約37%上昇しましたが、2021年の最高終値からは今なお約83%低い水準です。

重要なのは、「87%も下がったから戻るはず」ではありません。かつての高成長企業が、新しい利益成長モデルを作れるのか。

製薬マーケティング支援の再成長と新規事業の収益拡大が確認できれば、今回の反転は本格復活の入り口になる可能性があります。逆に、売上だけが増えて利益率が低下する状態が続けば、株価上昇も一時的な反発に終わる可能性があります。

エムスリーの87%の株価暴落からの反転攻勢が本物かどうか。その答えは、これから数四半期の「利益成長」が示すことになりそうです。

文=KIJIKUL編集部
※本記事は情報提供を目的として作成したものであり、特定の企業、商品、サービス、金融商品、投資その他の取引を推奨または勧誘するものではありません。掲載内容は記事公開時点の公開情報等に基づいており、意見・見解・予測などは執筆者または編集部の判断によるもので、予告なく変更される場合があります。内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、最終的な判断はご自身の責任において行ってください。【KIJIKUL編集部】

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