ネット銀行が法人金融を変える!「メインバンク調査」で見えた銀行選びの新常識

東京商工リサーチの「全国メインバンク調査」で、ネット銀行の急成長が鮮明になりました。GMOあおぞらネット銀行は、同行をメインバンクとする企業数を前年比64.3%増やし、増加率で3年連続トップ。上位4行をネット銀行が占めました。背景にあるのはデジタル化だけではありません。「金利がある時代」が復活し、銀行にとって預金と法人顧客の価値が高まっています。
調査で明らかになったネット銀行の破壊力
企業にとって「メインバンク」といえば、メガバンク、地方銀行、信用金庫のいずれかを選ぶのが一般的でした。その常識が崩れ始めています。
東京商工リサーチが2026年8月に発表した「全国162万4517社の“メインバンク”調査」によると、取引社数では三菱UFJ銀行が12万7218社で14年連続トップ。2位は三井住友銀行の10万2557社、3位はみずほ銀行の8万575社で、絶対数ではメガバンクが圧倒しています。
ところが、取引社数500社以上の金融機関を対象とした増加率ランキングでは様相が一変します。
1位はGMOあおぞらネット銀行で、前年比64.3%増の3,217社となり3年連続トップ。2位は旧住信SBIネット銀行のドコモSMTBネット銀行で37.7%増、3位はPayPay銀行の12.9%増、4位は楽天銀行の12.4%増でした。増加率ランキングの上位4行をネット銀行が独占したのです。
従来、ネット銀行は「振込手数料が安いサブ口座」という位置付けでした。しかし、クラウド会計や電子契約、オンライン決済が広がり、銀行選びの基準は「店舗が近いか」から「安く、速く、簡単に使えるか」へ変わっています。
さらに競争を後押ししているのが「金利がある時代」の復活です。超低金利下では、銀行は預金を集めても十分な収益につなげにくい状況でした。しかし、金利が上がれば、低コストで安定した預金を集めることが、銀行の収益力を左右する重要な要素になります。
法人は売上代金や運転資金、納税資金などを継続的に預ける顧客です。成長すれば、融資や決済、給与振込、M&Aなど取引も広がります。つまり、銀行にとって、成長する前の企業を早期にメインバンクとして獲得する価値が高まっているのです。
既存銀行にも変化が表れています。メガバンク3行で取引社数を増やしたのは三井住友銀行だけで、前年比860社増。2026年に同行をメインバンクとした企業の約3割が設立5年未満で、東京商工リサーチは中小企業・新設法人向けサービス「Trunk」が寄与した可能性を指摘しています。
法人金融は「ネット銀行対既存銀行」ではなく、新設法人や成長企業を誰が早く獲得するかという競争へ変わり始めています。
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ネット銀行はなぜメインバンクに選ばれるのか
GMOあおぞらネット銀行が急成長した理由の一つが、新設法人に狙いを定めたことです。同行は2018年に事業を開始し、2021年には法人特化戦略へ転換しました。顧客データを分析すると、創業直後のスモールビジネスや小規模法人が多いことが分かったためです。
企業は一度銀行口座を決めると簡単には変更しません。請求書や取引先のシステム、給与振込、税金の支払いなどに口座情報が組み込まれるからです。そこで同行は、既存企業から顧客を奪うより、まだメインバンクが固まっていない「創業時」に注目しました。
日本では毎月約1万3000社の法人が誕生しているとされ、GMOあおぞらネット銀行には毎月約1万社の口座開設申し込みがあり、そのうち約6000社が新設法人だといいます。同行は、日本政策金融公庫の融資返済口座振替、法人登記前からの口座開設審査、労働保険料や国税の口座振替など、法人が実際に必要とする機能も拡充してきました。
2026年8月17日からは法人・個人事業主の他行宛て振込手数料を1件100円(税込)に引き下げ、キャッシュマネジメントサービス(CMS)や給与・賞与振込サービスの提供も予定しています。「安い振込口座」から、企業の日常業務を任せられる銀行へ進化しているのです。
もう一つの武器がBaaS(Banking as a Service)です。銀行機能をAPIで外部サービスにつなぎ、会計ソフトなど普段使っているシステムから銀行機能を利用できるようにします。同行のBaaSサービス契約数は2026年3月末時点で1,088件。銀行は「企業が利用しに行く場所」から、企業活動の中に組み込まれるインフラへ変わり始めています。
AIは「銀行員の目利き」を超えられるのか
次の競争軸になるのがAIです。GMOあおぞらネット銀行は2026年5月、「AI銀行化」構想を発表しました。顧客ごとにAIエージェントが伴走する「お客さま向けAI銀行β版(AIアシスタント)」など、AIを金融サービスそのものに組み込もうとしています。
法人融資では、企業が決算書や事業計画を提出し、銀行員が面談や審査を行うのが一般的です。しかし、小口融資を人手中心で扱えばコストがかかり、創業企業や小規模法人ほど採算を取りにくくなります。
そこでAIが重要になります。入出金、決済、会計データなどをAIが分析すれば、過去の決算だけでなく、現在の売上や支払い、資金繰りの変化を継続的に把握できます。
小規模企業を低コストで分析できれば、ネット銀行は新設法人を「口座顧客」から「融資顧客」へ育てることも可能になります。将来は資金不足が予測された段階で、AIが融資や資金繰り改善策を提案することも考えられます。銀行は「お金が必要になってから相談する場所」から、企業の資金繰りを支える経営インフラへ変わるかもしれません。
ただし、AIがすべてを代替できるわけではありません。事業再生、M&A、事業承継、大型設備投資などでは、数字だけでなく経営者や事業の将来性まで理解する必要があります。これから重要になるのは「AIか人間か」ではなく、AIによる効率化と、人間による事業理解をどう組み合わせるかでしょう。
ネット銀行は第4の勢力になれるか
ネット銀行はメガバンク、地方銀行、信用金庫に続く「第4の勢力」になれるのでしょうか。現段階では規模の差があります。GMOあおぞらネット銀行をメインバンクとする企業は3217社に対し、三菱UFJ銀行は12万7218社です。
地方銀行や信用金庫にも、地域企業と長年築いてきた関係があります。経営者と直接会い、事業承継や取引先紹介まで相談できる強みは、デジタルだけでは簡単に代替できません。
それでも、増加率上位4行をネット銀行が占めた意味は大きいでしょう。ネット銀行が獲得している新設法人や小規模企業は、将来の法人金融市場の「入口」だからです。創業時に口座を開いた企業が成長しても利用を続ければ、預金や融資も拡大します。
銀行の競争力も変わっています。これまでは店舗網、営業担当者数、知名度が重要でした。今後はシステム開発力、API連携、AI、ユーザー体験、サービス開発のスピードも問われます。
GMOあおぞらネット銀行では役職員の約40%をエンジニアが占め、システム開発を内製化しています。銀行の強さを「店舗数」だけでは測れない時代になりつつあります。
一方、企業側は銀行を一つに絞る必要はありません。日常の決済はネット銀行、設備投資や経営相談は地方銀行や信用金庫、大型取引や海外展開はメガバンクという使い分けも考えられます。ただし銀行側から見れば、メイン口座を押さえる価値は高まっています。預金だけでなく、決済や資金繰りのデータを持つ銀行ほど、融資や新しいサービスを提案しやすくなるからです。
2026年の「全国メインバンク調査」が示したのは、単なるネット銀行の躍進ではありません。デジタル化と金利環境の変化によって法人顧客の価値が見直され、新設法人・成長企業をめぐる銀行間競争が本格化したことです。
かつて銀行は、実績のある企業を選び、融資する側でした。これからは、将来成長する企業から「メインバンクとして選んでもらう」ことが銀行の成長を左右する時代になるのかもしれません。ネット銀行とAIの台頭によって、法人金融の競争原理そのものが変わり始めています。
文=中田英明(経済ジャーナリスト)
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