管理職必読!「働いて×7」と「寝ていない」上司はどちらが職場を壊すのか

「働いて×7」という高市早苗首相の自民党総裁選出直後の挨拶は大きな話題となりました。一方で、その後には「ほとんど寝ていない」といった発言も注目を集めています。長時間働くことや睡眠時間を削ることは、本人の努力や責任感の表れと受け止められることがあります。しかし、組織を率いる経営者は、その姿勢が部下や職場全体に与える影響まで考えなければなりません。
首相発言が映し出したリーダー像
2025年10月4日、自民党総裁選で総裁に選出された直後の挨拶で、高市早苗氏は「馬車馬のように働いていただきます」と議員に呼びかけ、「私自身もワーク・ライフ・バランスという言葉を捨てます」と発言しました。さらに「働いて、働いて、働いて、働いて、働いてまいります」と繰り返し、国家再建への覚悟を強調しました。
この発言は、「働いて×7」としてSNSでも話題になりました。その後には、「ほとんど寝ていない」といった発言も報じられ、「そこまで働いているのか」という驚きと、「それで本当に大丈夫なのか」という不安の両方を呼び起こしました。
政治家に限らず、日本では昔から「寝る間も惜しんで働く人」が高く評価される文化があります。経営者でも、「昨日は3時間しか寝ていない」「休日はない」と語る人を「頑張っている」と評価する風潮は今も残っています。
しかし、その価値観は現在でも正しいのでしょうか。
もちろん、トップが誰よりも働く姿を見せることには意味があります。責任を背負う覚悟は組織の信頼につながります。しかし、その姿が「睡眠不足」や「自己犠牲」を前提とするものであれば、組織には別の問題が生じます。
部下は「上司が寝ていないのだから、自分も休めない」と感じます。「帰りづらい」「有給休暇を取りづらい」「体調が悪くても休めない」という空気は、制度ではなく上司の行動から生まれるものです。つまり、トップの働き方は、そのまま組織文化になるのです。
「寝ていない上司」が職場を壊す科学的理由
睡眠不足は「本人だけの問題」ではありません。医学や脳科学の研究では、睡眠不足になると前頭前野の働きが低下し、判断力、集中力、感情のコントロール能力が落ちることが分かっています。
具体的には、
・些細なことでイライラする
・部下への指示が曖昧になる
・リスク判断が甘くなる
・新しいアイデアが出にくくなる
・相手の話を最後まで聞けなくなる
といった変化が起こります。
本人は「気合いで乗り切っている」と思っていても、周囲から見ると「怒りっぽい」「話が通じない」「昨日と言っていることが違う」という状態になっていることも珍しくありません。
さらに、問題なのは、この状態が職場全体へ伝染することです。心理学には「感情伝染」という考え方があります。上司が不機嫌なら、部下も緊張します。部下が緊張すると発言が減ります。すると、ミスがあっても報告をためらいます。
結果として事故や不祥事につながる可能性も高まります。Googleが実施した組織研究「Project Aristotle」では、高い成果を出すチームに共通していたのは「心理的安全性」でした。安心して話せる職場をつくることが成果につながるのであり、睡眠不足で余裕を失った上司は、その最も重要な土台を壊してしまう恐れがあります。
つまり、「寝ていない上司」は、自覚がないまま職場の生産性を下げている可能性があるのです。
「働いて×7」の上司は悪なのか?
では、長時間働く上司はすべて悪なのでしょうか。決してそうではありません。創業期の企業や危機対応では、トップ自ら先頭に立ち、誰よりも働かなければならない局面があります。その姿勢に部下が勇気づけられることもあります。実際、多くの名経営者は現場を誰よりも回り、現場の最前線で判断を下してきました。
問題なのは、「長時間働くこと」と「良いリーダー」であることを混同してしまうことです。本当に優れたリーダーは、自分だけが頑張る人ではありません。部下が力を発揮できる環境を整え、仕事を任せ、組織として成果を出す人です。
ピーター・ドラッカーは「マネジメントとは、人の強みを成果に変えること」と述べています。強いリーダーとは、自分が24時間働く人ではなく、組織全体が持続的に成果を出せる仕組みをつくる人なのです。
また、「背中を見せる」という言葉も誤解されがちです。昔は「誰よりも遅くまで働く姿」が背中でした。しかし、今は違います。適切な時間に帰宅し、十分な睡眠を取り、健康を維持しながら成果を出す姿こそ、これからの時代の新しい背中なのかもしれません。
上司が示すべきは「自己管理」である
人材不足が深刻化する日本では、一人ひとりが長く健康に働ける組織づくりが不可欠です。そのためには、「長時間働く人」が評価される組織から、「成果を出しながら健康も維持する人」が評価される組織へと価値観を転換しなければなりません。
その第一歩は、上司自身の行動です。
・十分な睡眠を取る
・休日はしっかり休む
・体調が悪ければ無理をしない
・有給休暇を取得する
こうした姿勢は、「自分も休んでいい」「健康を大切にしていい」というメッセージとして部下に伝わります。逆に、「寝ていない」「休まない」「いつも会社にいる」という姿勢は、本人にそのつもりがなくても、部下への無言のプレッシャーになります。近年は健康経営を掲げる企業が増えていますが、その成否は制度ではなく管理職の行動によって決まると言っても過言ではありません。
首相の「働いて×7」や「寝ていない」という発言は、多くの国民に強い責任感を印象づけました。しかし、同時に、現代のリーダー像を改めて考える契機にもなりました。
責任感を示すことと、睡眠を削ることは同じではありません。努力を見せることと、自己管理を怠ることは同じではありません。これからのリーダーに求められるのは、「誰よりも働く人」ではなく、「組織全体が最も力を発揮できる環境をつくる人」です。
そして、その環境づくりの第一歩は、自らの睡眠や健康を管理し、冷静な判断力と安定した精神状態を維持することにあります。
「寝ていないこと」を誇る時代は終わりつつあります。これから評価されるのは、「十分に休み、十分に考え、十分な成果を出す」リーダーです。部下が真似をするのは、上司の言葉ではなく行動です。だからこそ、上司が示すべき背中は、長時間労働ではなく、自らを律し、持続可能な働き方を実践する姿そのものなのです。
文=KIJIKUL編集部
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