高卒採用も「売り手市場」!人手不足に苦しむ中小企業は誰を採用すべきか?

「大卒が採れないなら高卒を採用すればいい」――。そんな発想が通用しにくくなっています。帝国データバンクの調査では、2027年度に高卒採用を予定する企業は24.4%。大企業では42.7%に達する一方、中小企業は21.2%、小規模企業は11.2%にとどまりました。労働力人口は増えているのに、なぜ若手は採れないのでしょうか。
「高卒も採れない」中小企業の採用戦線に異変
人手不足に悩む中小企業にとって、「高卒採用」は若手を確保する有力な選択肢でした。しかし、その高卒採用にも大企業との競争が押し寄せています。
帝国データバンクが全国2万2060社を対象に実施した「2027年度の高卒採用に関する企業の意識調査」によると、高卒採用を「予定あり」と回答した企業は24.4%。およそ4社に1社です。採用理由では「若手人材の確保」が85.2%と突出し、「人手不足の解消」が52.5%、「将来の中核人材の確保」が50.2%と続きました。単なる人手不足の穴埋めではなく、次世代を担う社員を早くから育成したい企業が多いことが分かります。
問題は企業規模による差です。高卒採用を予定する大企業は42.7%なのに対し、中小企業は21.2%。小規模企業になると11.2%にすぎません。従業員数別でも、5人以下の企業は7.2%ですが、101~300人では50.6%、301~1000人では54.5%、1000人超では58.9%に達します。
高卒採用は、もはや中小企業だけの採用市場ではありません。業界別では製造業が36.4%、建設業が35.0%と高くなっています。技能継承のために若手を確保したい業界ほど、高卒人材への期待が強いことがうかがえます。
企業が直面する最大の課題も「応募者数の不足」で36.4%。次いで「企業認知度の不足」が31.1%です。さらに「教育・育成の負担の大きさ」24.6%、「早期離職」20.3%と、採った後の問題も続きます。つまり、中小企業は「募集しても来ない」「採用しても育てるのが大変」「育てても辞めてしまう」という三重苦に直面しているのです。
新卒採用戦線に起きている大異変
これまで中小企業の採用難というと、「知名度や給与で大企業に負けるため、大卒の新卒社員を採れない」というイメージがありました。そこで企業は、「大卒が難しければ高卒」「新卒が難しければ中途」と、採用対象を広げてきました。
ところが、企業の人手不足が深刻化したことで、大企業も高卒採用に目を向けています。特に工業高校などで学んだ若者は、製造、建設、設備、自動車整備などの企業にとって魅力的な人材です。若いうちから技能を習得してもらい、10年、20年かけて中核人材に育てることができます。
帝国データバンクの調査でも、高卒採用の理由として「大卒採用が難しい」と答えた企業は17.6%にすぎません。一方、「若手人材の確保」は85.2%、「将来の中核人材の確保」は50.2%でした。つまり、高卒採用は「大卒が採れない会社の代替策」から、企業の長期的な人材戦略へと変わりつつあるのです。
そうなれば、中小企業は大企業と同じ市場で高校生を奪い合うことになります。さらに物価高や賃上げも採用競争を難しくします。求職者から見れば、同じ仕事なら給与が高く、休日が多く、福利厚生が充実した会社を選ぶのは自然です。
一方、中小企業は原材料費、物流費、人件費などの上昇にも直面しています。大企業に対抗して初任給を引き上げれば、既存社員との給与バランスも見直さなければなりません。「人がいないから給料を上げる。しかし給料を上げれば利益が圧迫される」という難題を抱えることになります。採用競争は、人事部だけの問題ではなく、企業の収益力そのものを問う経営問題になったのです。
労働力人口は増えているのに人手不足の現実
不思議なのは、日本で働く人そのものが一方的に減り続けているわけではないことです。女性や高齢者の就業が増え、外国人労働者も重要な担い手になっています。それでも企業からは「人が採れない」という声が絶えません。
一つは、企業が必要としている人材と、働き手が希望する仕事のミスマッチです。人手不足が深刻なのは、建設、運輸、介護、宿泊・飲食、製造など、現場で人が働く必要性の高い業種です。テレワークが難しく、勤務時間や勤務地に制約があり、身体的な負担が大きい仕事も少なくありません。
もう一つは「若手不足」です。労働力人口全体が増えても、少子化によって若い世代そのものは減っています。企業が欲しいのが「これから30年働いてくれる20代」であれば、女性や高齢者の労働参加が増えても、その需要をそのまま埋めることはできません。そのため、若手を早期に確保する手段として、高卒採用への関心も高まっています。
しかも、高校生から見れば就職先の選択肢が増えています。企業側が「採用してあげる」のではなく、高校生から「選ばれる」立場になったということです。
高卒採用には独特の仕組みもあります。多くの地域では選考開始当初の応募先を1社に限る「一人一社制」が採用されています。帝国データバンクは、応募先を決める前から、高校訪問や企業説明会、職場見学などを通じ、仕事内容だけでなく、教育制度や身につく技能、将来目指せる役割まで伝えることが重要だと指摘しています。
中小企業は誰を採用したらいいのか?
では、中小企業はどうすればいいのでしょうか。重要なのは、「若い正社員を何人採るか」だけを採用戦略にしないことです。もちろん、高卒採用を諦める必要はありません。むしろ技能継承が必要な製造業や建設業では、若手を早くから育成する意味は大きいでしょう。ただし、知名度で大企業に勝つのは簡単ではありません。
そこで重要になるのが、「この会社に入ったら何ができるようになるのか」を具体的に示すことです。5年後にどんな技能が身につくのか。資格取得を会社がどう支援するのか。給与はどう上がるのか。どんな先輩が働いているのか。将来どのような仕事を任されるのか――。
会社の知名度では負けても、「働くことで得られるもの」を明確にすることはできます。帝国データバンクの調査でも、高卒採用の課題として「企業認知度の不足」が31.1%、「高校・教員との関係構築」が18.1%挙げられています。採用担当者が不足する企業については、訪問校の重点化、説明資料の共通化、現場社員の採用活動への参加なども選択肢として示されています。
さらに、採用対象そのものを広げる必要があります。高卒、大卒、中途という従来の区分だけでなく、女性、シニア、外国人、子育てなどでフルタイム勤務が難しい人、副業・兼業人材など、「働ける人」を組み合わせて事業を回す発想です。例えば、現場作業は若手社員、熟練技能の指導は65歳以上のベテラン、経理やマーケティングなどの専門業務は副業人材という組み合わせも考えられます。
採用できないなら、デジタル化やAIによって人手を必要とする業務そのものを減らすことも必要です。「人が足りないから人を採る」という発想だけでは、人手不足は解消できません。「本当に人が必要な仕事は何か」「機械やAIに任せられる仕事は何か」「正社員でなければできない仕事なのか」を分解することが重要です。高卒、大卒、中途、シニア、外国人、副業人材など、多様な人材をどう組み合わせるか。さらに、AIや省力化投資によって、必要な人手そのものをどう減らすか。
これからの中小企業に必要なのは「誰を採るか」という採用戦略だけではありません。限られた人材で、どう会社を成長させるかという経営戦略そのものを組み直すことなのです。
文=夏樹真生(経済ジャーナリスト)
※本記事は情報提供を目的として作成したものであり、特定の企業、商品、サービス、金融商品、投資その他の取引を推奨または勧誘するものではありません。掲載内容は記事公開時点の公開情報等に基づいており、意見・見解・予測などは執筆者または編集部の判断によるもので、予告なく変更される場合があります。内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、最終的な判断はご自身の責任において行ってください。【KIJIKUL編集部】
120×520.jpg)

