セルフレジ万引きはなぜ起きる?物価高だけでは説明できない「犯罪」の構造

スーパーやコンビニでセルフレジの導入が広がる一方、商品のスキャンを意図的に省いたり、安い商品のバーコードを使って高額商品を会計したりする不正が問題になっています。「落とした財布が戻ってくる」と評されてきた日本で、なぜセルフレジ万引きが増えているのでしょうか。未曽有の物価高で生活が苦しくなったからなのか、それとも日本人の倫理観が低下したのでしょうか。
セルフレジ万引きが増える背景とは
スーパーやドラッグストア、コンビニ、衣料品店などで、セルフレジが急速に広がっています。利用者が自ら商品を読み取り、支払いまで行う仕組みは、レジ待ち時間の短縮や人手不足への対応という点で、大きな効果を発揮してきました。店舗側にとっても、限られた従業員を品出しや接客、総菜づくりなどに振り向けられるため、セルフレジは生産性向上の切り札と位置づけられています。
しかし、セルフレジの普及とともに深刻になっているのが、セルフレジを利用した万引きです。全国万引犯罪防止機構の調査として報じられた内容では、セルフレジを導入したことで万引き被害が増えたと回答した店舗が25%に上ったとされます。導入店舗のすべてで被害が増えているわけではありませんが、少なくない小売店が防犯上の問題を感じていることは確かでしょう。
セルフレジ万引きが起きやすい最大の理由は、商品登録と会計作業の多くを利用者自身に委ねる構造にあります。有人レジでは、従業員が商品を一つずつ確認し、バーコードを読み取ります。客が商品を隠したり、会計せずに持ち出そうとしたりすれば、不自然な行動が従業員の目に入りやすくなります。
一方、セルフレジでは、客自身が商品を手に取り、スキャンし、袋に入れます。どの商品を読み取ったのか、すべてを少人数のスタッフが同時に確認するのは困難です。
有人レジでは「店員の目」が不正を抑止していましたが、セルフレジでは機械と客だけが向き合う時間が増えます。その結果、「一つぐらい通さなくても分からないのではないか」という出来心が生じやすくなるのです。
従来の万引きは、商品を服やバッグに隠すといった、明確に「盗む」行為が中心でした。これに対し、セルフレジの不正は、スキャンを省いたり、安い商品の価格で会計したりする「ごまかし型」が中心です。
不正を行う側が「万引きではなく、操作を少しごまかしただけ」と自分に言い訳しやすい点も、被害を拡大させる原因と考えられます。しかし、商品を意図的に読み取らずに持ち出す行為は、通常の万引きと同様、窃盗に当たります。少額の商品であっても、故意に代金を支払わなければ犯罪になります。便利さと省人化を優先した結果、これまで人が担っていた確認作業の一部を利用者の適切な操作に依存するようになったことが、セルフレジ問題の出発点にあります。
「空スキャン」など巧妙化する不正の手口
セルフレジを悪用した手口は、単純なスキャン漏れにとどまりません。防犯カメラの映像などから、さまざまな手口が確認されています。
代表的なものが「空スキャン」です。商品をバーコードリーダーに近づけるものの、バーコード以外の部分をかざしたり、指でバーコードを隠したりして、機械に読み取らせない手口です。周囲から見ると、商品をきちんとスキャンしているように見えるため、従業員が遠くから見ただけでは判別しにくい特徴があります。
「単品打ち」も悪質な手口です。例えば、ビール6缶パックには、6缶セット用のバーコードと、個々の缶のバーコードがあります。セット全体ではなく1缶分のバーコードだけを読み取ることで、6缶パックを1缶分の価格で会計し、持ち出すというものです。
さらに、「もやしパス」と呼ばれる手口もあります。もやしや駄菓子など、安価な商品のバーコードをあらかじめ用意し、高額商品のバーコード部分に重ねて読み取らせます。精肉や酒類などの高額商品を、より安い商品の価格で会計するわけです。
ほかにも、カートの下段に置いた米や飲料をスキャンしない、複数の商品を重ねて一つだけ読み取る、エコバッグへ直接入れた商品を会計しないといった手口があります。
衣料品店などで使われるRFID方式のセルフレジにも死角があります。商品をかごに置くだけでタグを一括して読み取れる仕組みは便利ですが、会計前にタグを外したり破損させたりすると、商品情報を正しく読み取れない場合があります。
ただし、セルフレジは必ずしも「ばれにくい仕組み」ではありません。多くの店舗では、POSシステムによって売り上げと在庫を管理しています。在庫データと販売記録に不自然な差異が生じた場合、防犯カメラの映像や会計記録をさかのぼり、不正が疑われる時間帯や利用者を確認できる場合があります。近年は、AIカメラによって利用者の手や商品の動きを認識し、商品をスキャナーの前に通したのに登録されなかった場合、画面に警告を出す技術も登場しています。
重量センサーを使い、読み取った商品の重さと袋詰めされた商品の重さが合わない場合に、会計を停止する仕組みもあります。こうした技術は故意の万引きだけでなく、利用者のうっかりミスを防ぐうえでも有効です。
セルフレジでは、高齢者や操作に慣れていない人が、読み取り音を聞き逃したり、同じ商品を複数購入したのに一つしか登録しなかったりすることがあります。これらは意図的な犯罪とは区別しなければなりません。
ただし、退店後にスキャン漏れに気づきながら、店舗へ申告せずに代金未払いに気づきながら商品を返却せず、店舗にも申し出なかった場合は、法的な問題に発展する可能性があります。。利用者は会計後にレシートと商品を確認し、間違いに気づいた場合は速やかに店舗へ申し出ることが重要です。店舗側にも、監視だけを強化するのではなく、利用者がミスをしにくい画面表示や音声案内、スタッフを呼びやすい仕組みが求められます。
物価高が原因なのか?不正を生む心理
セルフレジ万引きの増加を見て、「日本人の倫理観が低下した」「昔の日本人はこんなことをしなかった」と考える人もいるでしょう。日本は、落とし物が持ち主に戻りやすい国だと広く認識されてきました。店舗の無人販売所や料金箱など、利用者の良心を前提とした仕組みが長く成り立ってきたことも事実です。
それだけに、セルフレジでの不正増加は、日本社会の変質を象徴する出来事のようにも映ります。しかし、これを単純に「日本人の劣化」と断定するのは適切ではありません。
まず、セルフレジ自体が急速に増えているため、不正行為が発生する機会も増えています。セルフレジ万引きの件数が増えたとしても、それだけで日本人全体の倫理観が低下したとは言えません。
また、物価高の影響も無視できません。食品や日用品、電気代、ガソリン代などが上昇する一方、賃金の伸びが追いつかない世帯では、家計の負担が増しています。生活困窮が食品の窃盗につながるケースや、「少しぐらいなら」と価格をごまかす行為が生まれる可能性があります。
ただし、物価高は犯罪の説明にはなっても、正当化にはなりません。生活が苦しくても、ほとんどの人は代金を正しく支払っています。物価高や生活苦が背景にあっても、不正行為の責任が免じられるわけではありません。
セルフレジは、省人化のために導入された仕組みですが、「無人化」と同じではありません。人件費を減らすことだけを優先し、監視や案内を担う従業員まで削減すれば、万引き被害や操作ミス、顧客トラブルによって、かえって損失が拡大する恐れがあります。今後は、フルセルフレジだけでなく、店員が商品を登録し、支払いだけを客が行うセミセルフレジを改めて評価する店舗が増える可能性もあります。
AIカメラ、重量センサー、RFID、防犯ゲートなどの技術と、スタッフによる声かけを組み合わせることも必要です。セルフレジ万引きは、日本人が突然悪くなったから起きているわけでも、物価高だけが原因でもありません。便利さを追求する一方で、人の目と確認の仕組みを弱めた結果、一部の利用者の出来心や意図的な不正が、表面化しやすくなった問題だと考えられます。
問われているのは、日本人全体の道徳性ではなく、善意だけに頼った店舗運営の限界です。セルフレジを社会に定着させるためには、消費者のモラルに期待するだけでなく、操作ミスと意図的な不正の双方を防ぐ仕組みを整える必要があります。
文=KIJIKUL編集部
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