「鬼倉先生は本物だ」なぜ社長が集まると「叱られた自慢大会」が始まるのか

「あそこで怒鳴られなければ、今頃ウチの会社はなかった」「あれだけ真剣に叱ってくれたのは先生だけ」――。社長が集まると、なぜか始まるのが「一倉先生に叱られた自慢」です。言い訳をすればカミナリが落ち、工場の玄関が汚れていれば中にも入らず帰ってしまう。それでも多くの経営者が「鬼倉先生は本物だ」と慕いました。なぜ社長たちは厳しい指導を求めたのでしょうか。

「やりもしないで言うな!」社長を叱った理由

「あそこで一倉先生に怒鳴られなければ、今頃ウチの会社はなかったかもしれない」
「いや~、あれだけ真剣に叱ってくれたのは、一倉先生だけですよ!」
「こっちが先生の血管が切れるんじゃないかと心配しましたからね~」

不思議なことに社長が集まると、「自分のほうがもっと叱られた」という自慢大会になります。
 
長年、経営コンサルタントの一倉定先生が定期指導をしていた会社で、いつものように駅に社長が迎えに行ったときのこと。会社に向かう車中で、先月の課題の進捗の話になりましたが、社長は全く進んでいない理由を社員のせいにして言い訳しました。

その日はあいにくの雨でしたが、先生がいきなり語気を強め「車を止めろ!」と言いました。そして、傘もささずに歩いて駅に向かって帰り始めました。驚いた社長は先生を車に乗せようと説得しますが、「雨がなんだ! 軍隊の行軍に比べれば何ともない!」と意に介しません。やはり、戦前生まれは筋金入りです。

でも、この社長(現在は会長)は、「“鬼倉先生”は本物だ」と言って、生涯の師としてその後も指導を受け高収益企業を築いていきました。

経営の勉強をしている社長は実のところ、さまざまな先生の勉強をしていて、権威のある人の話や、大会社を育てた社長の話が大好きで、よく聞いていました。

S社長が一倉先生に相談があるというので、会社の状況を診てみると、明らかに身の丈を超えた過剰管理で経費倒れの状態でした。中堅企業でも「最小管理」で充分とする先生の組織階層の削減アドバイスに、「これは○○のやり方で……、こういう場合どうするんですか?」と重箱の隅をつつくような問答が行われました。

こうなると先生の反応は二つです。一つは「当然カミナリ」。もう一つは、先生がプイっと横を向いて、「人に話を聞いて実行する気がないなら、あんたに話すことは何もない」と黙ってしまう場合です。ただし、目は鋭い三角です。

言い訳、他責もダメですが、やりもしないで机上のリスクをあれこれ論ずる社長を一番叱っていました。現状は厳しい業績なのに、変化を止めているのが社長本人ですから、まさに怒り心頭。

「やりもしないでぐちゃぐちゃ言うな!」ということです。

本気でない社長には、「一倉はあんたの相手をするほど暇じゃない!」と、さっさと席を立つのです。

工場を10分で退散!「環境整備」が経営を変える

「環境整備」については、伝説がいくつも残っています。

『一倉定の社長学全集』でも、講義の中でも、環境整備の重要さを「社員に意識革命を起こす」とまで紹介されますが、最初は多くの社長はそこまで実感していません。

業績の低迷で苦しんでいるときは皆、先生に「即効薬」を求めているからなおさらです。飲食チェーン経営の社長も店舗視察に先生をお連れして、販促・集客法の相談をしようとしましたが、店内のゴミ箱を見た瞬間、「カミナリ」が落ちました。さすがにそのときは同席していませんでしたが、社長が続けて商売の相談を切り出したため、大変な状態を招いたそうです。

また、K社長は長年勉強し、やっと工場を見ていただこうと遠路、先生を招きました。車で本社工場に着いて玄関のドアを開けようとした瞬間、「なんだ!このガラスの汚れは!これでは工場を見るまでもない」と言って、本当に東京へ戻ってしまいました。

先生が個別指導で地方に1日がかりで行くのには相応の費用がかかりますが、わずか10分で帰られては正直たまりません。しかし、この両社長とも「目が覚めた!」と言われ、自分が勝手に考えていた「ピカピカ基準」と「先生のピカピカの徹底基準」がこんなにも違っていたと述懐されています。

飲食チェーンの会社は、今では地元の超人気店となり、連日満席。店舗数もゆっくりではありますが、着実に伸ばしています。

自分の会社に先生を招き、一対一で指導を受ける方々はベテラン社長がほとんどで、何回か叱られ要領を得ていますが、はじめての社長は先に述べたような体験を誰もがしています。そのため、予行演習をするわけではありません。公開講座の1日目の夕方や経営計画作成合宿の期間中には、「社長と先生一対一の個別相談」があります。はじめての社長にとっては、相談の列に並ぶだけでも勇気が要ります。皆の噂も聞いているし、講義会場の雰囲気もピリピリです。

先輩社長は叱られ慣れてもいるので、緊張していても、愚痴や言い訳めいたことは言いません。

質問も的確ですが、はじめての社長が内部管理や社員への不平など口にしたら、次の社長が相談にならなくなるので、「経営上、解決しなければならない問題」と「自分なりに考えた対策を1~2案示し、これで良いか?他に注意するところはないか?」という視点で指導を受けるように助言します。

他山の石ではありませんが、貪欲な社長はあらゆる機会を捉え、後輩の社長の困りごとを聴くことさえも自らの勉強にします。そうして互いに打ち解け、仲間を増やし知恵を共有し合い、切磋琢磨して経営力をつけていくのです。

相談する社長も安易に人に解決策を聞くと、そのときは助かりますが自ら考え尽くす力を失ってしまいます。最後には「教えてくれ」「紹介してくれ」など、常に「アレくれ、コレくれ」のくれくれ族になり、社長仲間も皆離れていってしまいます。

社長の仕事は「決定」と「結果責任」にある

社長の仕事は決定することです。それも「我が社の未来を作るための、今の決定」です。

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意見を求めることは問題ありませんが、多くの人に聞きすぎると迷ってしまい時間だけがズルズルと過ぎてしまいます。他人の意見や助言を「自らの決定」としてしまい、上手くいかなければ他責とし、ひどい場合は「現場に丸投げにして」、担当者に責任を取らせる社長も現実に目の当たりにしました。

これこそ最悪の社長業の放棄であり、財務や経営戦略以前の「社長の姿勢」の問題です。残念ながら後継社長に見られがちな行動なのです。ただし、問題点の分析や「やるべき論」は一見筋が通っている場合も多く、知識も豊富ですから本人さえそのまずさに気づいていないのです。

神ならぬ人間のやることですから、間違いはつきものです。ダメだと思ったら「朝令朝改」でも問題ない――。それも一倉先生の教えでした。社長の見栄や虚しいプライドなどは糞喰らえです。

決定とともに全ての結果責任こそが社長業の根幹であり、お客様の満足だけが唯一の合否判定なのです。

※本稿は作間信司著『伝説の経営コンサルタント 一倉定の社長学』(プレジデント社/2019年11月29日刊)から一部を抜粋し、再編集したものです。

文=作間信司(日本経営合理化協会専務理事/執筆時)
作間信司(さくま・しんじ)
1981年、明治大学経営学部卒業後、大手インテリア会社にて販売戦略などの実務経験を積んだ後、1983年、日本経営合理化協会入協。事業の企画・立案を担当する傍ら、会長牟田學の薫陶を受け、全国の中堅・中小企業の経営相談に携わる。以来、40年以上の豊富な指導経験からオーナー経営者との親交も非常に広く、その親身のコンサルティングに多くの社長が全幅の信頼を寄せる。メーカー・商社・小売・サービス業など、現在まで300余社を指導する気鋭のコンサルタント。

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