マンション大規模修繕で42社が受注調整!なぜ、この巨大談合は成立したのか

マンションの大規模修繕工事を巡り、施工会社と設計コンサルの計42社による大規模な談合が明らかになりました。公正取引委員会が命じた課徴金は総額16億3788万円。さらに驚くのは、管理組合の味方であるはずの設計コンサルが受注調整に関与し、落札した施工会社から工事請負契約価格の5%を目安に金銭を受け取っていたことです。なぜこれほど多くの会社が談合に加わったのでしょうか。

42社が関与!なぜ巨大談合が成立したのか

マンション住民が積み立ててきた修繕積立金を使って行われる大規模修繕工事。その業界で、大規模な談合が明らかになりました。公正取引委員会は2026年9月28日、関東地区のマンション大規模修繕工事を巡り、設計コンサルと施工会社が独占禁止法に違反する受注調整を行っていたとして、排除措置命令と課徴金納付命令を出しました。違反事業者は実数で42社です。

ただし、「42社が一堂に集まって一つの談合をしていた」という単純な構図ではありません。設計コンサルのリノシスコーポレーションが関係する工事では施工会社36社と同社の計37社、翔設計が関係する工事では施工会社19社と同社の計20社が違反事業者とされました。両方に関与した会社があるため延べ57社、重複を除くと42社になります。課徴金はリノシス案件が9億2157万円、翔設計案件が7億1631万円、合計16億3788万円に達しました。

なぜ、これほど多くの会社が関与したのでしょうか。公取委がの認定した仕組みを見ると、その理由が見えてきます。工事ごとに、まず設計コンサルと「受注協力関係」を構築した施工会社が受注予定者になります。そして、それ以外の会社は受注予定者が工事を取れるように協力します。

具体的には、受注予定者が、見積もり合わせに参加する他社の見積価格などを決め、受注予定者以外の会社は、連絡された価格で管理組合に見積もりを出すか、そもそも見積もり合わせに参加しないというものでした。設計コンサル側は管理組合の発注予定金額である「設計予算」などの情報を受注予定者側に提供していました。表面上は複数社が競争しているように見えても、実際には受注する会社が事前に決まっていたわけです。

しかも、公取委によると、対象となった大規模修繕工事の大部分が、この仕組みによって受注されていました。42社という数字の大きさは、単発的な不正ではなく、複数の施工会社が参加できる受注調整の仕組みが形成されていたことを物語っています。

「管理組合の味方」が受注調整の仲介役

では、なぜマンションの大規模修繕工事は談合の舞台になったのでしょうか。

ポイントは発注者である管理組合と施工会社の間に存在する情報格差です。マンションの大規模修繕では、外壁、防水、給排水設備など専門的な知識が必要になります。一方、管理組合の理事はマンション住民であり、必ずしも建築や工事の専門家ではありません。

そこで利用されるのが「設計監理方式」です。管理組合は設計コンサルに建物の劣化診断、工事範囲や仕様の策定、施工会社の選定補助、工事監理などを依頼します。つまり設計コンサルは本来、専門知識を持たない管理組合を支える立場です。

ところが今回、その立場が逆に利用されました。公取委の資料によれば、設計コンサルは管理組合から得た情報を施工会社側に共有し、受注予定者の意向も踏まえながら業務を進めていました。公取委が公表した概要図を見ると構造はさらに分かりやすく、設計コンサルが管理組合から得た情報を受注予定者側に提供し、施工会社間でも見積価格などが調整される構造が示されています。

さらに、注目すべきなのが「5%」です。公取委によると、対象工事を受注した施工会社は原則として、工事請負契約価格の5%を目安とする金額を設計コンサル側に支払っていました。

仮に工事費が2億円なら5%は1000万円です。公取委は、こうした手数料について、設計コンサルから施工会社へ提供される情報の内容などによっては自由な競争をゆがめるおそれがあるとして、マンション改修に関係する3つの事業者団体に内容を周知するよう申し入れています。

管理組合が「自分たちの利益を守ってくれる専門家」として依頼した設計コンサルが、施工会社からも金銭を受け取る。この利益相反を招きかねない構造こそ、今回の問題を考えるうえで重要です。

「談合対象マンション」実名まで公表された理由

今回の公取委の発表でもう一つ注目されたのが、工事を発注したマンション名まで明らかになったことです。排除措置命令書には、談合の対象となった工事についてマンション名、契約年月日、施工会社が具体的に記載されています。たとえば「アイディーコート練馬徳殿公園」「ルネ・インタープレイス」「ドルフ竹ノ塚アクティオ」などの工事名が並んでいます。

なぜ、不正をしたわけではないマンション側の名前まで公表する必要があったのでしょうか。

理由の一つは、どの管理組合が受注調整の対象となったのかを明確にする必要があったためです。今回の排除措置命令では、施工会社に対して、違反行為をすでに行っていないことや、今後受注予定者を共同で決定しないことなどを、自社が受注した工事の管理組合に通知することを求めています。設計コンサルにも、対象となった工事を発注した管理組合への通知が命じられました

つまり、管理組合は単なる第三者ではなく、競争が制限された工事の「発注者」です。公取委側は、業者に対象管理組合への通知を命じるため、具体的にどのマンションの工事で談合を認定したのかを示す必要があったと説明しています。また、公取委の調査では工事自体の手抜きなどは認められなかったとされています。

マンション名の公表は、今後さらに大きな問題につながる可能性があります。管理組合が、本来なら競争によってもっと安く発注できたはずだとして、施工会社などに損害賠償を求める可能性があるからです。ただし、実際にどれだけ価格が押し上げられたのかは個別に立証する必要があり、談合が認定されたからといって、そのまま一定額の損害が確定するわけではありません。

管理組合にも求められる「丸投げしない発注」

今回の事件で談合はなくなるのでしょうか。公取委は施工会社などに対して、今後、受注予定者を共同で決めないことに加え、独占禁止法を守るための行動指針の作成・改定や、営業担当者への定期的な研修などを命じました。

ただ、再発防止を企業側のコンプライアンスだけに頼るのでは十分ではないでしょう。今回の事件が示したのは、管理組合が専門家に業者選定を任せること自体が問題なのではなく、情報と選定権限が一部の関係者に集中したとき、競争が外から見えにくくなる危険性です。

管理組合側も、設計コンサルと施工会社の資本・取引関係や手数料の有無を確認する、応募条件や選定過程を複数の理事でチェックする、見積価格が不自然に接近していないか確認する、必要に応じて第三者の専門家からセカンドオピニオンを得る、といった対策が考えられます。大規模修繕は一般に十数年単位で実施されることが多く、工事費が億円単位になることも珍しくありません。住民が長年積み立ててきた修繕積立金が原資です。

今回明らかになったのは、単に「42社が談合した」という問題だけではありません。競争をチェックするために管理組合が頼った専門家自身が、受注調整の仕組みに組み込まれていたことこそ、事件の核心でしょう。

大規模修繕を「専門家に任せておけば安心」と考えるのではなく、誰が施工会社を選び、誰が価格情報を持ち、誰から誰へ金銭が流れているのかを透明にする。その仕組みを作れるかどうかが、同じような談合を繰り返さないための重要なポイントになりそうです。

文=KIJIKUL編集部
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