PR TIMES初任給36万円の衝撃!中小企業は採用と定着を両立できるか

PR TIMESが2028年新卒の初任給を月額36万円に引き上げます。一方、今回の改定に伴う全社員一律の昇給は行わず、入社後は仕事や責任、能力、成果で給与を決める方針です。同社株は10月15日に約22%上昇しましたが、人事方針が評価されたと即断はできません。高い初任給は成長の原動力になるのでしょうか。成果を公平に評価する難しさと、中小企業が採用・定着を両立する条件を考えます。

初任給36万円と「一律昇給なし」の意味

プレスリリース配信サービスを運営するPR TIMESは2026年10月9日、2028年新卒の初任給を、2027年新卒の月額34万円から36万円へ引き上げると発表しました。入社後早期にマネジメントを担う可能性を特に高く評価した人材には、月額42万5000円を提示します。

同時に明示したのが、今回の改定を理由とする全社員一律の昇給は行わないという方針です。36万円を全社員共通の給与の下限とせず、入社後は年次ではなく、担う仕事と責任、発揮した能力、成果に基づいて評価します。評価によっては、給与の据え置きや減額もあると説明しています。

これは「既存社員は昇給しない」という意味ではありません。採用時には将来の可能性を評価し、入社後は実際の貢献を報酬に反映する考え方です。

給与の比較にも注意が必要です。総合職の募集では、月給に45時間分の固定残業代を含むとしています。固定残業代を含まない企業の初任給とは、月額だけで待遇を単純比較できません。

高い初任給は応募を促す材料になります。しかし、新人への期待に基づく報酬と、既存社員の貢献に対する報酬のバランスをどう取るかは、別の課題です。新人の給与が育成担当者の給与に近づけば、「教える責任まで負うのに」と不満が生じる可能性があります。

成果を重視するなら、営業成績だけでなく、顧客対応の改善、品質維持、後輩の育成も評価する必要があります。個人の数字を追うほど、周囲を助ける人が不利になる制度では、組織全体の成果は伸びません。

株価約22%上昇は人事方針への評価か

同社株は10月15日、前日比21.91%高の2598円となりました。ただし、初任給改定の発表は10月9日です。急騰の前日10月14日には、中間決算とともに大幅な増配が発表されています。

増配では、2027年2月期の年間配当予想を16円80銭から74円30銭へ、約4.4倍に引き上げました。期首・期末平均の連結自己資本に対する年間普通配当総額の割合を示すDOEの基準も、2%以上から9%以上に変更しています。発表の時期と内容を踏まえると、株価急騰の背景には、株主還元の強化があったと考えられます。

業績も「好調だから初任給を上げた」と単純には整理できません。2027年2月期中間決算は、売上高が前年同期比8.0%増の50億4900万円だった一方、営業利益は7.4%減の17億5100万円でした。主力サービスの利用企業数は13万3784社に増えましたが、連結では増収減益です。

通期売上高予想は108億4400万円から103億1900万円へ下方修正しました。タスク管理ツール「Jooto」からの撤退決定や、一部事業の計画未達が理由です。費用削減などによって営業利益予想32億5000万円は据え置きましたが、前期比では10.3%の減益予想です。

同社は成長投資を進めながら、将来の利益拡大を目指しています。人材への投資も、その成果が問われる段階にあります。2028年入社者への初任給改定が、すでに現在の業績を押し上げたわけではありません。

株価も10月16日に2661円へ上昇した後、22日は2422円となりました。人事方針の成否は短期の株価では測れません。採用した人材の活躍、既存社員の定着、一人当たりの付加価値の向上を、継続して確かめる必要があります。

初任給を上げなければ採用できないのか

初任給の引き上げが広がる背景には、人材獲得競争と物価上昇があります。学生にとって、家賃や生活費を賄える給与は重要です。仕事内容に魅力があっても、生活の見通しが立たなければ、応募先から外れる可能性があります。

リクルートワークス研究所によると、2027年卒の大卒求人倍率は1.62倍です。前年の1.66倍から低下しましたが、民間企業の求人が就職希望者数を上回る状況は続いています。

ただし、すべての企業が同じ初任給を提示する必要はありません。採用で競う相手は、地域や職種、必要な専門性によって異なります。まず、自社が求める人材の相場と、応募が集まらない理由を確認することが先です。

給与が相場を大きく下回っているなら、働きがいの説明だけで補うのは難しいでしょう。一方、一定の給与水準を確保していても、休日の少なさ、長時間労働、配属の不透明さが応募を妨げている場合は、初任給だけを上げても解決しません。

入社後の見通しも重要です。初任給が高くても、その後にどのような仕事を任され、何ができれば昇給するのか分からなければ、その会社で長く働き続けるかどうかを判断しにくくなります。採用時には、目先の月給とともに、成長と処遇の道筋を伝える必要があります。

成果による評価を掲げる企業ほど、その説明責任は重くなります。期待する役割を事前に確認し、途中で進捗を話し合い、評価の理由を伝える。上司による判断のばらつきを点検する仕組みも欠かせません。

中小企業は採用と定着を一つの予算で考える

中小企業にとって大切なのは、新卒採用の費用と既存社員の定着に必要な費用を、一つの人件費予算で考えることです。初任給の増額分だけを確保しても、教育担当者や若手社員の処遇を置き去りにすれば、離職によって採用効果が失われかねません。

例えば、初任給を月2万円上げて5人を採用する場合、月例給与だけで、12カ月分の増加額は計120万円です。さらに、社会保険料の事業主負担や、既存社員との給与バランスを調整する費用が加わります。採用した社員が在籍し、翌年以降も同じ条件で新たに採用すれば、人件費の増加分は積み上がります。

まず、自社の給与を年齢や勤続年数だけでなく、担当業務と責任で並べてみることです。新人と給与が近い社員のうち、独力で仕事を進める人、顧客を支える人、育成を担う人に、役割に見合った処遇ができているかを確認します。

限られた原資で全員を一律に引き上げられない場合でも、配分の根拠は示せます。「指導を受けて働く」「独力で担当する」「改善や育成を担う」などの段階を設け、給与の範囲と昇格条件を分かりやすくする方法です。

採用人数の見直しも選択肢になります。欠員をすべて補充する前に、重複作業や不採算業務を減らせないかを検討します。生まれた原資を採用と既存社員の処遇に回せれば、人手不足への対応と定着をつなげられます。

PR TIMESの方針が問いかけるのは、初任給の金額だけではありません。会社は社員に何を期待し、その期待に応えるためにどう育て、どの貢献に報いるのか。入社する人と働き続ける人の双方に説明できることが、人材投資を持続的な成長につなげる条件です。

文= KIJIKUL編集部
※本記事は情報提供を目的として作成したものであり、特定の企業、商品、サービス、金融商品、投資その他の取引を推奨または勧誘するものではありません。掲載内容は記事公開時点の公開情報等に基づいており、意見・見解・予測などは執筆者または編集部の判断によるもので、予告なく変更される場合があります。内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、最終的な判断はご自身の責任において行ってください。【KIJIKUL編集部】

\ 最新情報をチェック /