新卒3割離職の背後に「ゆる転職」層!中小企業が人材確保につなげる採用戦略

新卒で入った会社を3年以内に辞める人は、大卒でも3割を超えます。しかし、採用対象になるのは、すでに退職を決めた人だけではありません。在職しながら情報を集め、良い会社があれば転職を考える「ゆる転職」層も広がっています。中小企業にとっては、応募を待つだけでは出会えなかった人材とつながる機会です。人材確保と入社後の定着につなげる採用戦略を考えます。
新卒の3割超が離職、その手前にも採用候補者
新卒社員を採用しても、全員が長く働き続けるわけではありません。厚生労働省の「学歴別就職後3年以内離職率の推移」によると、2022年3月卒の就職後3年以内離職率は、大学卒33.8%、高校卒37.9%でした。大卒では約3人に1人、高卒では4割近くが、最初の勤務先を離れています。
離職は必ずしも転職を意味せず、理由も一様ではありません。それでも、新卒採用が人材獲得の一度限りの機会ではないことは分かります。最初の職場で経験を積み、仕事内容や働き方を見直した若手と、中途採用で出会える可能性があるのです。
さらに、その手前には、退職を決めていなくても次の選択肢を探す人がいます。「今すぐ辞めたいわけではないが、条件が合えば転職したい」という「ゆる転職」層です。すでに離職した人や、転職を急ぐ人だけに採用対象を絞ると、こうした候補者との接点を逃してしまいます。
マイナビの「転職活動実態調査(2025年)」では、「いい会社が見つかれば転職したい」が56.9%で、「必ず転職したい」の28.5%を上回りました。対象は、2024年7月~2025年6月に転職活動をした20~50代の正社員1500人であり、新卒社員全体の意向ではありません。
したがって、3年以内離職率とこの割合を足したり、大小を直接比較したりはできません。採用戦略上のポイントは、実際に離職する人に加えて、在職中に別の職場を検討する層にも目を向けることです。
不満による退職だけでなく、将来に備える転職へ
「ゆる転職」の背景には、現職への不満だけでなく、将来への備えがあります。今の会社で身に付ける技能は、社外でも評価されるのか。AIが普及したとき、自分の仕事や役割はどう変わるのか。退職を決断するほどではなくても、外の世界を確かめたい理由はあります。
一方、勤務先を変えるにはリスクが伴います。給与が上がっても、残業や通勤時間が増えれば生活は苦しくなるかもしれません。仕事内容が魅力的でも、上司や同僚との関係は入社するまで分かりにくいものです。現職に一定の満足があれば、比較に時間をかけるのは自然です。
こうした動きは、仕事への意欲が低いことを意味しません。むしろ、自分に合う環境を慎重に探す姿勢と捉えられます。企業が「本気で転職する気がない人」と切り捨てれば、将来の採用候補者を見失うことになります。
実際、転職への関心と転職者数は同じ動きをしていません。日本経済新聞が労働力調査をもとに報じたところでは、2026年4~6月期の転職者数は325万人と2020年同期とほぼ同水準でした。一方、追加の仕事などの希望も含む「転職等希望者」は969万人と、2020年同期に比べて約2割増えています。
中小企業には、この検討期間に自社を知ってもらう余地があります。本格的な転職活動が始まってからだけでなく、その前から仕事内容や職場を伝えられれば、転職先の候補に入る可能性が高まります。
応募を求める前に、知ってもらう接点をつくる
最初に必要なのは、自社が求める人材と、その人に提供できる条件の整理です。「若手なら誰でも」では、声のかけ方も曖昧になります。採用時に求める業務経験、入社後に任せる仕事、入社後の育成で補える範囲を整理しその内容に合う人との接点を考えます。
入口としては、応募不要の職場見学、現場社員とのオンライン交流、小規模な勉強会などがあります。製造業なら改善事例、小売業なら店舗運営、IT企業ならAI活用など、参加者自身の仕事にも役立つテーマを用意すれば、会社を知らない人も参加しやすくなります。
採用サイトやSNSでも、募集条件を並べるだけでなく、社員がどのような課題に取り組み、何を学んだかを発信します。候補者が知りたいのは、入社後の自分を想像できる情報です。現場の写真や社員の具体的な経験は、その判断を助けます。
カジュアル面談は、選考との区別を明確にすることが大切です。情報交換と案内しておきながら、志望動機や転職時期を厳しく問えば、信頼を損ねます。まず相手が知りたいことを聞き、仕事や職場の実態を伝えます。
そのうえで、関心があれば次の職場見学や選考を案内します。すぐに動かない人には、本人の希望を確認し、必要な時期に情報を届けます。連絡の回数を増やすことより、相手の関心に合った内容を届けることが重要です。
ただし、接点づくりだけでは条件面の不足は補えません。給与の幅、昇給基準、残業、転勤、教育体制を具体的に示す必要があります。マイナビの2026年調査では、年収が下がる転職を受け入れられない人は68.6%でした。「やりがいがある」という説明だけでは、現職を離れる判断につながりにくいのです。
若手の再出発を受け止め、定着につなげる
中小企業にとって、若手の早期離職は人材流出の問題であると同時に、他社で経験を積んだ人を迎える機会でもあります。短い在籍期間だけで判断せず、何を経験し、なぜ環境を変えたいのか、次の職場で何を実現したいのかを確認することが大切です。
例えば、仕事の進め方を学び直したい人には、指導担当者と研修内容を示します。担当領域を広げたい人には、任せる業務と成長の道筋を伝えます。前職で満たされなかった希望と、自社が提供できる環境が合えば、採用につながる可能性があります。
ただし、早期離職者を一律に「採りやすい人材」と考えるべきではありません。人員不足を埋めるために、待遇や職場環境を実態より良く説明すれば、同じようなミスマッチを繰り返します。仕事の難しさや繁忙期の負担も伝え、双方が納得して選ぶことが必要です。
入社後も、仕事を任せて終わりにはできません。期待する役割を明確にし、定期的に困り事を聞き、評価や育成につなげます。採用時の説明と実際の働き方が一致して初めて、応募前から育てた信頼が定着に結び付きます。
大卒でも3人に1人が就職後3年以内に離職する一方、現在の職場で働きながら、次の選択肢を探す人もいます。その人たちに適切に接触し、比較に必要な情報と、自社で働く具体的な理由を届ける。応募を待つ採用から、将来の候補者との関係を築く採用へ。その転換が、中小企業の人材確保の可能性を広げます。
文= KIJIKUL編集部
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