社長が現場に出れば会社は変わる!一倉定が説いた顧客第一の経営と業績の関係

※写真はイメージです。

売上が伸びない原因を、営業力や商品の説明不足に求めていませんか。経営コンサルタントの一倉定は、社内に構える経営者を「穴熊社長」と呼び、お客様回りへと促しました。店頭には、隅に置かれた商品や古いPOPなど、報告や数字だけでは気づけない問題があります。社長が現場へ出れば、顧客の本音や新事業の手がかりも見えてきます。

社員は社長を見る!顧客中心の経営への転換

伝説の経営コンサルタント、一倉定氏の語録には、聞きなれない言葉がいくつもありますが、「天動説」もその1つです。天動説では、地球を中心に太陽や星々が回ると考えます。これになぞらえ、会社を中心にお客様が動くと考えるのが「天動説の経営」です。

「商売上手の俺が作った商品が売れないわけがない」と思い込み、「営業が悪い、売り方が悪い、お客様が良さを理解していない」となってしまうのです。一倉先生の古い本の中に、この天動説の言葉を使った社長が登場しますが、あまりにピッタリな表現だったので、以来、先生は、社長が自社の都合を中心に進める経営を「天動説の経営」と、怒りを込めて呼ぶようになったのです。

社長が本来考えなければいけないのは、お客様が中心で自社が周りをぐるっと回っている経営であり、当然「地動説の経営」になるわけです。

社員は毎日のようにお客様に接したり、電話を受けたりしているのでお客様目線になりやすいのですが、現実は社内での力関係から「社員は直属の上司、さらに社長を見て」仕事をしています。中小企業では、社長が人事権を持ち、評価や給与の決定にも大きな影響力を持つことが多いため、無理もありません。

だからこそ、社長自身が「お客様のご要望」に目を向けなければなりません。お客様の要求を満たすために会社は存在するという、一倉先生の経営理念の中心にある「お客様第一主義」を、行動で示す必要があるのです。

社員は社長の言動をよく見て、その本音を敏感に読み取っています。言葉で、朝礼で毎日唱和しようとも、いざというときの社長の行動が天動説であれば、社員は社長の望み通りに天動説の行動をしてしまいます。

だから先生の言う「良い会社、悪い会社があるわけではない」「良い社長と悪い社長がいるだけであり、会社は社長次第でどうにでもなる」に通じるのです。

数字だけで決めない!社長が現場に出る理由

社長室が立派すぎる会社を見ると、先生はボロ会社と断じていました。豪華で、居心地の良い社長室は確かにプライド、自尊心をくすぐる魅力を持っているし、大切なゲスト、取引先の社長を迎えるのには必要かもしれませんが、しょせん言い訳にすぎません。

ある有名な教育関連の事業を全国展開していた社長を訪ねたところ、本社内に2つの社長デスクを持っていました。当時、不思議に思い理由を伺うと、想像通り「立派な社長室はゲストを迎えるときと、自分1人で考え事をするときにだけ使う」とのことでした。そのときは社員も心得ていて、声をかけないし取次も原則しない方針です。

もう1つは、ワンフロアのほぼ中央に置かれた、社員と同じデザインながら少し大きい両袖机でした。「社内にいるときはほとんどここで仕事をしているし、事務所内の雰囲気も、電話の鳴り方も皮膚感覚でつかめるから」「実際にはあまり座ってないけどね」と語りました。

先生の「ボロ会社論」は極端かもしれませんが一面の真理でもあります。
 
地方の会社に伺うと、敷地も広いので、大きな自社ビルを建てていて、創業の先代社長が立派な社長室を作り、後継社長がその後に入っている場合も多いです。誰だって、あんな豪華な部屋に入っていると、自分が偉くなったように錯覚してしまうのではないかと、余計な心配をしてしまいます。

特に最近は、パソコンやタブレットに豊富なデータを蓄積し、数字を読み、エクセル上で戦略を練って意思決定することが、最先端の経営だと考える後継社長もいます。昔なら机上の空論ですが、今ではエクセル上の空論です。

確かにデータも大事ですが、お客様一人ひとり、現場一つひとつの積み重ねが事業であり、その現場を直接見たり、お客様の変化を肌で感じたり、ライバルの動向に神経を尖らせたり、異業種からの新規参入者のビジネスコンセプトに触れておかないと、数字が訴えることを自分の都合の良いように解釈し、見誤ってしまう危険があります。

「具体的に数字で……」と口癖のように言いますが、数字こそが抽象的、平均的であって現場こそが具体的なのです。だから、一倉先生は30年も40年も前から、「社長の定位置はお客様のところである」と言い切っていました。社員の報告やデータだけでは、真のお客様の要求は社長室ではわからないのです。社長の出社は1週間のうち半日程度で充分だと指導していました。

だからずっと会社で、どんと構えている社長を、先生は「穴熊社長」と呼び、嫌がる社長と同行し、お客様回り、店舗回りに追い立てていたのです。

得意先回りで見えた売上不振の原因と改善策

名古屋のH社長は、大阪の一倉セミナーに出席し、「穴熊社長はだからダメなんだ!」と散々にお灸を据えられました。

社長もただ怒られるだけでは腹が立ちましたが、事実だから仕方がありません。渋々、主要得意先を回り出しましたが、最初は随分と嫌味を言われたそうです。しかしながら店頭に行ってみると、自社の商品がお店の隅っこに置かれていたり、古いPOPがそのままついていたり、在庫商品が汚れていたりと、現状を見るにつけ売上不振の原因がすぐにわかりました。大急ぎで対策に着手し、トップダウンで全営業に号令を発しました。

知る人ぞ知る伝説のコンサルタント・一倉定氏の教えを、事例を交えたコンパクトな1冊です。

すると、当然ながら直近12カ月の売上合計を示す「売上年計」が、徐々に上向き始め、社長自身がお客様回りの効果に目覚め、出張出張の毎日に変わってしまいました。そんなこととは知らない社長の奥様は大変です。

今まで毎日のように家で晩ご飯を食べていた主人が、外泊続きとなってしまった。「これはひょっとして……」と良からぬ想像をし始め、一時期夫婦仲が険悪になってきたのです。毎月のセミナーにも出席されていたため、「今日は合理化協会のセミナー」と言って家を出るわけなので、奥様からすれば「日本経営合理化協会も一緒になって悪いことをしているに違いない」と私宛てに電話までかかってきました。

きちんと説明し、奥様も一緒にセミナーに参加していただいて疑惑は氷解しましたが、穴熊社長の変身ぶりは見事でした。今となっては笑い話のようです。

社長からすれば、自分がお客様のところへ行くと、訪問先でも、担当者の上司や役員、社長が応対してくれるようになります。話題は自然と、経営上の課題や本当に困っている問題、開発中の案件など、営業担当者だけではなかなか聞けない内容へと広がり、自社の取り組むテーマもハッキリとしてくるのです。

※本稿は作間信司著『伝説の経営コンサルタント 一倉定の社長学』(プレジデント社/2019年11月29日刊)から一部を抜粋し、再編集したものです。

文=作間信司(日本経営合理化協会専務理事/執筆時)
作間信司(さくま・しんじ)
1981年、明治大学経営学部卒業後、大手インテリア会社にて販売戦略などの実務経験を積んだ後、1983年、日本経営合理化協会入協。事業の企画・立案を担当する傍ら、会長牟田學の薫陶を受け、全国の中堅・中小企業の経営相談に携わる。以来、40年以上の豊富な指導経験からオーナー経営者との親交も非常に広く、その親身のコンサルティングに多くの社長が全幅の信頼を寄せる。メーカー・商社・小売・サービス業など、現在まで300余社を指導する気鋭のコンサルタント。

※本記事は情報提供を目的として作成したものであり、特定の企業、商品、サービス、金融商品、投資その他の取引を推奨または勧誘するものではありません。掲載内容は記事公開時点の公開情報等に基づいており、意見・見解・予測などは執筆者または編集部の判断によるもので、予告なく変更される場合があります。内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、最終的な判断はご自身の責任において行ってください。【KIJIKUL編集部】

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