大谷フィーバーは終わったのか?二刀流スターに求められる超人的活躍と期待の重さ

大谷翔平選手が所属するドジャースがポストシーズンを勝ち進んでも、日本の熱気は昨年ほどではないとの指摘が出ています。今季は30本塁打、投手として8勝。打撃の主要成績は移籍後3年間で最も低いものの、投打で結果を残しました。それでも物足りなく映るのは、見る側の期待が上がりすぎたからでしょうか。「大谷フィーバー」が静かに見える理由を考えます。
「大谷中継」が減った?地上波と観戦環境の違い
大谷翔平選手の活躍が、毎日のように日本の話題をさらった2024年と2025年。それに比べ、2026年のポストシーズンは静かに感じられます。ネットメディアも、ドジャースの勝ち上がりに対して国内の盛り上がりが乏しいと指摘しています。
ただし、「大谷中継が減ったから人気が落ちた」と結論づけるのは早計です。NHKはシーズン開幕前、MLBを昨年並みか、それを超える200試合以上中継する予定だと発表しました。これはMLB全体の計画であり、大谷の出場試合だけの数字ではありませんが、放送全体を縮小する方針だったとはいえません。
一方、地区シリーズとリーグ優勝決定シリーズでは、NHK総合によるドジャース戦の中継は、シリーズを通して週末の最大2試合とされています。ワールドシリーズに進出した場合は、NHK総合で全試合を中継する予定です。
自ら放送予定を調べて見るファンと、テレビをつけて偶然見始める人とでは、観戦のきっかけが違います。情報番組の特集や繰り返し流れる映像にも、普段は野球を見ない人を引き込む役割があります。そうした接点が目立たなければ、関心がなくなっていなくても、社会全体の熱狂は小さく見えるでしょう。
昨年との中継本数や報道時間、視聴率を同じ条件で比較したデータがない以上、日本人全体が大谷に飽きたとは断定できません。まず、問うべきは、人気の消滅よりも、関心がどこで、どのように表れているかです。
打撃の主要成績は移籍後最低だった
今季の打撃成績は139試合で打率2割7分5厘、30本塁打、81打点、11盗塁。出塁率と長打率を足したOPSは.889でした。2024年は打率3割1分、54本塁打、130打点、59盗塁、OPS1.036。2025年は打率2割8分2厘、55本塁打、102打点、20盗塁、OPS1.014です。
打率、本塁打、打点、盗塁、OPSは、ドジャース移籍後の3年間で最も低くなりました。ただし、「打撃成績が最低」という言葉は比較の範囲が重要です。選手としての価値が低いという意味でも、メジャーでの自己最低という意味でもありません。
投手としては14試合に登板し、8勝2敗、防御率1.79、85回3分の2を投げました。2025年にも二刀流に復帰していますが、その年の投手成績は1勝1敗、47回、防御率2.87。今季は打撃の数字が下がる一方、投手として担った仕事は増えています。
もちろん、防御率が低くても規定投球回には届いておらず、年間を通じて先発ローテーションを支えた投手と同じ条件では比較できません。故障による稼働の制約も、チームへの貢献を評価する際には考慮が必要です。
それでも、打者の前年実績だけで今季を採点すれば、投手として積み上げた価値が抜け落ちます。打撃の落ち込みを二刀流の負担だけで説明することもできませんが、投打の合計で見る視点は欠かせません。「去年ほど打たない」という感想と、「今年は活躍していない」という評価は分けるべきです。
さらに、二刀流で出場するには、打撃練習と投球に向けた調整を両立し、試合後には双方の疲労に対応する必要があります。ただし、今季は7月上旬を最後に登板しておらず、年間を通じて二刀流を続けられたわけではありません。二刀流の価値は、ホームラン数と勝利数を並べるだけでは伝わりません。競技の成果に加え、継続に必要な工夫を説明することが、スターへの理解を深めます。
わずか2年で「出て当然」に変わった期待
エンゼルスに在籍した2018年から2023年まで、大谷はポストシーズンに出場できませんでした。ドジャースに移籍した2024年に初めて出場し、今年が3回目です。それなのに、大谷が10月の大舞台でプレーする光景には、早くも見慣れた印象があります。
2024年には史上初の「50本塁打・50盗塁」を達成しました。翌年も55本塁打を放ちました。この2年間が鮮烈だったからこそ、30本塁打でも期待を下回ったように映るのでしょう。驚異的な実績が、次の年には最低限の期待へ変わってしまうのです。
同じことは、チームへの見方にも起こり得ます。強豪ドジャースなら勝ち進むはずだと思えば、地区シリーズ突破の喜びより、次の勝利を待つ気持ちが先に立ちます。初めての挑戦が持っていた緊張感は、成功が続くほど薄れます。
ただし、すべてのファンが超人的な記録を要求しているわけではありません。日々の打席や登板を楽しむ人もいます。勝利や記録更新をきっかけに見る人も含め、観戦の仕方はさまざまです。
問題は、過去の快挙だけを尺度にすると、優れた成績まで物足りなく見えることです。記録を毎年更新することが成功の条件になれば、評価は際限なく厳しくなります。大谷の衰えを論じる前に、見る側の基準がどれほど高くなったかを振り返る必要があります。
記録更新だけに頼らない、大谷の伝え方
メディアにとって、史上初の記録や豪快な本塁打は伝えやすい題材です。映像だけでもすごさが伝わり、見出しも作りやすい。対して、故障に配慮しながら出場を続ける難しさや、投打の貢献を合わせた評価には、丁寧な説明が必要です。
その意味で、今年は大谷をどう扱うかが問われる年でしょう。ただし、特集の少なさを理由に「不調だから報じない」「視聴率が取れないから避けた」と断定するには、各社の放送実績や編集判断を確かめる必要があります。
それでも、記録更新のたびに大きく取り上げる報道が続けば、視聴者も新記録を待つようになります。日々の競技としての面白さより、前回を上回る驚きが求められる。その循環が、優秀でも派手さを欠くシーズンの伝えにくさにつながる可能性があります。
必要なのは、好調時の礼賛にとどまらず、記録が伸びない時期にも競技の価値を伝える報道です。投手として何を変えたのか、打席でどのような対応をしているのか、故障の影響について何が分かり、何が分からないのか。そうした情報は、快挙がなくても観戦する理由になります。
大谷フィーバーが終わったのかは、今後の試合や観戦動向も見なければ判断できません。ただ、スターの価値を熱狂の大きさだけで測る必要はないはずです。毎年の超人的活躍を待つだけでなく、挑戦の過程を伝え、楽しめるか。今季は大谷自身だけでなく、応援する私たちとメディアの成熟も問われています。
文=夏樹真生(経済ジャーナリスト)
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