日立は復活、東芝は事業売却…総合電機8社の明暗を分けた「変わる覚悟」とは

7873億円の最終赤字から復活した日立製作所。家電の名門からエンターテインメント中心へ姿を変えたソニーグループ。一方、東芝は主力事業の売却と非上場化を経験し、シャープは台湾・鴻海の傘下に入りました。かつてテレビやパソコン、半導体で競った「総合電機8社」は、いまや異なる市場で成長を模索しています。2026年3月期決算から見えるのは、単純な勝ち負けではありません。
7873億円の赤字から変わった日立
2009年3月期、日立製作所は7873億円の最終赤字に沈みました。当時、日本の製造業で過去最大となった赤字は、幅広い事業を抱える「総合電機」の経営を問い直す転機になりました。
その後、日立は事業の組み合わせを大胆に変えます。かつて22社あった上場子会社は、売却や完全子会社化などを経て、上場したまま日立傘下に残る会社がなくなりました。ただし、22社すべてを切り捨てたわけではありません。グループに取り込む事業と、外部に託す事業を選び直したのです。
日立化成や日立金属などを売却する一方、送配電やデジタル分野には大型投資を進めました。社会インフラと情報技術を結び付け、顧客の設備や業務の改善まで担う方向へ軸足を移しています。
2026年3月期の売上収益は10兆5867億円、親会社株主に帰属する当期利益は8023億円でした。調整後営業利益率も11.3%に達しています。巨大な売上規模を維持することより、継続的に利益を生み出せる事業構造をつくることが重要だったといえます。
別の方向へ変わったのがソニーです。テレビなどのエレクトロニクス事業を立て直しながら、ゲーム、音楽、映画を成長の中心に据えました。製品を販売するだけでなく、作品やサービスを通じて顧客との関係を続ける収益構造を強めています。
2025年10月には金融事業のパーシャル・スピンオフも実行しました。2026年3月期の金融を除く継続事業の営業利益は1兆4475億円です。なお、非継続事業を含む最終損益は会計処理によって赤字となっており、本業の収益力とは分けて見る必要があります。このうち、金融事業の連結除外に伴って累積その他の包括利益を純損益へ振り替えたことによる損失は、現金流出を伴うものではありません。
日立とソニーに共通するのは、従来の企業イメージに縛られず、将来の利益を生む分野へ資本を振り向けた点です。
パナソニックなど4社も選択と集中へ
パナソニックホールディングスは、家電事業を維持しながら、電池、電子部品、企業向けシステムなどへ成長の機会を広げています。物流や在庫管理を支えるブルーヨンダーも、その一つです。もっとも、事業を広げれば利益が増えるとは限りません。2026年3月期の営業利益は2364億円で、前期比44.6%減でした。構造改革費用などが重く、売上高営業利益率は2.9%にとどまります。成長投資と低収益事業の改革を、同時に成果へ結び付ける段階にあります。
富士通は、製品中心からサービス中心への転換を進めています。企業や行政のシステム構築・運用に加え、業種を横断して経営課題を解く「Uvance」を展開しています。2026年3月期の売上収益は前期比1.3%減でしたが、営業利益は31.4%増の3483億円となりました。売上の拡大だけを追わず、事業構成や採算を改善する姿が表れています。ただし、最終利益には非継続事業の影響もあるため、増益の中身を確認することが大切です。
日本電気(NEC)も、かつてのパソコンや携帯電話メーカーという印象から大きく変わりました。ITサービスと社会インフラを軸とし、2026年3月期の営業利益は40.3%増の3599億円、営業利益率は10.0%となっています。
三菱電機は、工場の自動化、空調、電力・交通など、機器と社会インフラに根差した事業を持ちます。2026年3月期の営業利益は10.5%増の4330億円でした。幅広い製品群を持つ強みを生かしながら、データやサービスを組み合わせ、機器販売後にも収益を得る仕組みが問われます。
4社の変革は同じではありません。ソフトウエアやサービスへ重心を移す企業もあれば、製造技術を核に付加価値を高める企業もあります。「脱・家電」だけでは、それぞれの戦略を説明できません。
東芝は「解体」で終わったのか
東芝は、不正会計問題や米原子力事業の巨額損失などを経て、家電、医療機器、半導体メモリーといった事業を手放しました。2023年12月には上場廃止となっています。成長分野への集中を進めた日立に対し、東芝は経営危機への対応として主力事業の売却を迫られました。
ただし、現在の東芝を「解体された企業」とだけ捉えると、実態を見誤ります。エネルギー、社会インフラ、電子デバイスなどを抱え、事業を続けているからです。
2025年度決算資料によると、2026年3月期の売上高は3兆7091億円、営業利益は3008億円でした。送変電配電やHDDなどが伸び、売上高営業利益率は8.1%となっています。最終利益は1兆9673億円と巨額ですが、キオクシア株式の売却・評価益などが大きく寄与しています。この数字だけで完全復活と判断することも適切ではありません。売却で得た資金を、残った事業の競争力向上につなげられるかが焦点です。
シャープは2016年に鴻海傘下となりました。しかし、経営の支えを得ることと、収益構造が変わることは別です。液晶事業への依存が長く経営の課題となり、大型液晶の生産停止など抜本的な再編を進めました。
2026年3月期は売上高が12.4%減る一方、営業利益は77.6%増の485億円、最終利益は474億円でした。赤字体質の是正は進んでいますが、営業利益率は2.6%です。家電などのブランド事業を伸ばし、安定して利益を残せる体制を築けるかが次の課題になります。
両社とも、過去の危機だけで将来は決まりません。同時に、黒字になっただけで改革が完了したともいえないのです。
総合電機の看板より「何で稼ぐか」
かつて8社は、テレビやパソコン、半導体など、互いの事業領域が重なる市場で競いました。現在は、社会インフラ、エンターテインメント、ITサービス、産業機器など、主戦場が分かれています。
背景には、製品の性能や生産量だけでは利益を守りにくくなったことがあります。価格競争が激しくなるなか、顧客の業務に深く入り込むサービスや、独自の技術・コンテンツを持つ価値が高まりました。
ただし、多角化そのものが失敗だったわけではありません。複数事業を持つことで需要の変動を補い合い、技術や顧客基盤を共有できる利点もあります。問題は、低収益事業を抱える理由が曖昧になり、成長分野への投資が遅れることです。
今後はAIやデータセンター需要も、各社に商機をもたらします。しかし、需要の追い風があっても、買収費用や設備投資を回収できなければ持続的な成長にはつながりません。
8社の歩みが経営者に突き付けるのは、「何を始めるか」と同時に「何を続けないか」を決める責任です。手放す判断が遅れれば選択肢は減ります。一方、削減ばかりでは次の柱は育ちません。改革の成果は、事業や組織をどれだけ縮小したかではなく、残した事業に人材と資金を集め、顧客から選ばれる力を高められたかで測るべきでしょう。
文= KIJIKUL編集部
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